黒衣の破壊者


「お前たちはここで待機しててくれ」


 いつものように追従しようとした兵士達に向かってレインは言った。


「し、しかし......」

「何が起きているか分からないんだ。だから船のことは頼んだぞ」

「はっ! 承知しました!」


 心配する兵士達に対して、あくまでこれは任務、それぞれの役割を全うするように告げるレイン。兵士達は言われてそのことに気づき、その場に留まった。レインとラスウェルは謎の少女の言葉通り、神殿の入口へと向かった。


「ここが土の神殿か」

「おい。レイン。2人だけで行くのか?」

「他の兵士を危険な目に遭わすわけにはいかないだろ」


 兵士達にはうまく言ってついて来ないようにしたのだが、ラスウェルに対しては本音を漏らすレイン。少し考え込んだラスウェルは、


「さっきの幻の言葉を本当に信じているのか?」


 と言った。何かが起きていることだけはなんとなく感じていたが、レインとは違いまだ半信半疑だったのだ。 

「もちろん。幻だろうとなんだろうと女の子は女の子だからな」


 レインはそう言うと、心配するラスウェルをよそにさっさと神殿の中へと入っていく。


「ま、待て、レイン! 1人で勝手に進むんじゃない!」


 ラスウェルは慌ててレインを追いかけた。いつもと変わらぬように見える神殿内部を、二人は見渡した。


「見たところ異変はないようだが......」

「いや、そうでもないみたいだぜ」


 レインがそう言ったやいなや、突然モンスターが襲いかかってきた。


「神殿内にモンスターだと!? 結界はどうした!? 機能していないのか!?」


 襲い来るモンスターを倒しながら、ラスウェルがそう叫んだ。


「機能してないからモンスターがいるんだろ」


 レインは冷静に答えながらモンスターを倒していく。


「そ、そんなことわかってる!」

「ラスウェル。土のクリスタルがあるのは?」

「神殿の最奥部だ」

「よし、こいつらを蹴散らして一気に進もうぜ」


 レインはそう言って大剣を構えると、言葉通り次々とモンスターを蹴散らしながら奥へと進んで行った。


「レインの言う通り、神殿にきて正解だったということか」


 現れるはずのない、神殿内のモンスターを倒しながら、ようやくラスウェルもただ事ではないことを察した。


「なあ、ラスウェル。これでわかったろ。女の子の言葉は信じるに限るって」

「ふん。そのうち手酷い目に遭わなければいいがな」


 軽口を叩きながらも次々とモンスターを倒していくレイン。


「レイン、気を引き締めろ。お前がグランシェルトの騎士の中で実力ナンバー1なのはわかっている。だが、お前は騎士にしてはお調子者で、緊張感というものが足りん。だから、俺はお前が心配で目が離せないのだ」


 そう言ってレインの心配をするラスウェル。そうやってよそ見ばかりをする彼が隙だらけだとモンスター達も分かっているかのように、集中攻撃を仕掛けてくる。


「......ラスウェル。今は俺じゃなくて敵から目を離すなよ」

「そ、そんなことわかってる! 当然のことだ! バカにするな!」


 ラスウェルは自分の視線がレインにばかり注がれているのを気づかれ気まずいと思ったのか、ごまかすように激しく刀を振るう。


「いいか、レイン。お前はグランシェルトの騎士たちの手本にならなければいけない存在だ。身だしなみをちゃんと整え、言葉遣いも正しくないとダメだ。それができないというのなら、俺が徹底指導してやろう」

「え~。手本なんてガラじゃないし。そういうのはラスウェルに任せるって」

「レイン。お前は才能も実力も騎士ナンバー1だというのに......。面倒くさがりやでさぼり魔で自覚というものが全くない。やはり、俺がもっと目を光らせねばならんか」


 そう言いながら攻撃の手の止まるラスウェル。


「......ラスウェル。今は敵に目を光らせろよ」


 ラスウェルに襲いかかるモンスターを、レインは炎のように真っ赤に輝く大剣を振るい倒していく。


「なんだか強そうなやつが出てきたぞ」


 レインがそう言った先には、鎧のような外殻、さらに頭部と肩と鼻にまで鋭いツノを持ったモンスター、ベルモーダーが現れた。


「敵の行動を見ながら気をつけて戦おう」


 今までのモンスターと比べて力も強く、さらにレイン達が剣で攻撃すると、体内に溜め込んだ電流を放ってきた。一人であったなら相当な苦戦を強いられたであろうが、レインとラスウェルのぴったり息の合った連携攻撃で危なげなく撃破した。


「手強い敵だったな」

「ああ」

「さあ、クリスタルルームに向かおう」


 レインはそう言うと、視線の先にあるクリスタルルームの扉を開けた。

 二人の視線に飛び込んできたもの。それは、土のクリスタルの輝きをさえぎるかのように立ちつくす、黒衣に包まれた人間のような後ろ姿だった。


「何者だ、お前は! それ以上クリスタルに近付くな!」


 ラスウェルはそう叫ぶと、警戒を強めるように刀を構えた。レイン達の方に振り返ったその姿は、全身顔まで覆う漆黒の鎧。表情も性別も、人間かどうかすらもわからないほどであった。


「無知であることが罪というならば、お前たちは全て罪人だ」

「何!?」


 黒衣の男はそう言ったかと思うと、暗黒の力を発した。


「罪人は償わなければならない。700年の重き罪を」

「こいつ......何を言ってる?」


 ラスウェルが呆然としていると、レインはその黒い力の異常さに気がついた。


「ラスウェル、やばい! 離れろ!」


 レインがそう言ってラスウェルを引っ張ろうとする間も待たず、黒衣の男が黒き力を放つ。二人はなす術もなく激しく弾き飛ばされた。


「さあ、始まりだ。億万劫の偽りに報復の鉄槌を」


 黒衣の男はそう言うと土のクリスタルに剣の一撃を与え、粉々に破壊した。


「くっ......待て......」


 圧倒的ともいえる一撃を食らったレインはそのまま倒れた。しかしその直後、再びクリスタルの少女が姿を現わした。


「この力を使って。滅びに抗うビジョンの力を」


 黒き力とは対照的な光り輝く力を受けたレインとラスウェル。二人は目を覚まし、立ち上がった。


「......君は?」


 レインが少女に近付こうとすると、今度は突然不思議な力によって、空間がぼやけ、一瞬真っ白になったように感じた。


「生きて。そして、この世界を救って」


 そして気付くと、レインとラスウェルは神殿の入口に立っていた。


「今のはいったい、どういうことなんだ?」


 ラスウェルは自分が倒れたところから目を覚ますまでの出来事があまりに現実離れしていたために、訳が分からなくなっていた。


「ビジョンの力......?」


 レインがクリスタルの少女の言っていたことを反芻しようとすると、


「ぐわぁーーー!!」


 突如、部下の叫び声が飛空艇の方から響き渡った。急ぎ飛空艇の方へと向かうレイン達。飛空艇は破壊され、火の手があがっていた。兵士達も皆倒れ、ほぼ全滅していたようだった。


「大丈夫か! しっかりしろ!」


 かろうじて息のある兵士を抱き起こすレイン。


「......ううっ。......鎧の男に......やられて......」

「おい! 目を開けろ! 頑張るんだ! 諦めるな!」


 必死に兵士の身体を揺さぶるレイン。


「......レイン、よせ。......もう死んでいる」


 ラスウェルの言葉を聞いて、ゆっくりと抱えていた亡骸を地面へとおろすレイン。


「くそっ。どうしてこんな......」


 強くこぶしを握り締め、小さく、身体を震わせるレイン。


「今、俺たちにできるのは、早く城に戻ってこの件を報告することだ」


 ラスウェルは静かにそう言った。


「......ああ、わかった」


 レインはぽつりとそう返事をすると、ぎゅっと唇を噛んだ。



無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう