険しい道のり
山中に現れるモンスターを倒しながら、ランゼルト山脈の上層部まで登ってきたレイン達。気温もふもとに比べるとかなり下がり、山道にも雪がちらほらと見え始めていた。
「ふうー。あとどれぐらい登ればいいんだ?」
「そうだな。ようやく中間地点あたりだ」
ラスウェルがそう答えると、レインはうんざりした表情をして見せた。というのも、今自分達がいる場所が山頂のように思えていたからだ。実際、多くの山々を見渡せる地点には来ているのだが、一つの山を登り切れば終わり、というわけではない。ランゼルト遺跡は連綿と続く山脈を越えた先にあるということなのだ。フィーナはそんな二人のやり取りをよそに、吊り橋の先の景色を楽しんでいた。
「この辺、すごくきれい。山を登ればもっときれいなんだろうな」
「レイン、フィーナを見習え。あんなに元気なんだぞ」
「そうだな。フィーナを見習っていくか」
レインもフィーナの楽し気な表情を見ると、不思議と元気が湧いてくるように思えた。
「残り半分、がんばろー!」
「おー!」
フィーナのかけ声に合わせるようにレインも元気よく右手をあげる。
「いっちに! いっちに!」
「いっちに! いっちに!」
フィーナのマネをしてはしゃぐレインを見て、ラスウェルは複雑な心境になった。
「うるさいからやっぱり見習うのはやめてくれ」
これからはうかつなことは言えないな、そう思いながらラスウェルは元気に進む二人のあとを追った。
「わわっ! 足場が! 危ない! 落ちる落ちる!」
「おいおい。高いところは飛空艇で慣れているだろう?」
崖の足場をよろめきながら危なっかしく歩くレインに、ラスウェルはうんざりするように言った。
「いーーや! 飛空艇から見るのと実際に歩くのとでは全く違う!」
そう言いながらも、モンスターを倒しながら進んでいくレイン。本当は危ないとか言いながら楽しんでいるのではないか、ラスウェルはそんなことを思いながらレインに続いた。
「くそっ! なんでこんなにモンスターが襲ってくるんだ?」
そうは言ってもさすがにモンスターの数が多く、レインもうんざりし始めていた。
「この辺りに何かあるのかも知れんな」
「その何かってなんだよ」
「......さぁな、俺にだってわからないことはある」
ラスウェルはそう冷たく返すと、襲ってくるモンスターを黙々と倒していった。
「ここまでくると気温が......。さすがに寒くなってきたな......」
ぶるっと身震いをしながらレインはそう言って剣を持つ手をこすった。
「......レイン、見ろ。モンスターの卵があるぞ」
「おい、待てよ。それってワイバーンの卵じゃないか」
「ワイバーンって食べれるの? 美味しいの?」
フィーナは目を輝かせながらレインにそう聞いた。
「うーん。一歩間違えると俺たちが美味しく食べられちゃうかも」
レインはそう言って警戒を強めると案の定、卵を守るように巨大な影が迫ってきた。
「きたぞ、ワイバーンだ!」
「これがワイバーン......。メチャクチャ強そうなんだけど」
大きな翼で威嚇するワイバーンを見て、フィーナはおずおずと後ずさりした。
「強そうなんじゃない。強いんだよ、こいつはもの凄く。下手したら全滅だぞ。俺たち」
ラスウェルはそう言って剣を構えた。彼自身も一度飛空艇上で遭遇したことがあったのだが、その時は戦わずに逃げることができた。というより、逃げるしかできなかった。だが今は走って逃げることもできない。いや、今の自分達の実力であれば、その必要もない。レインもラスウェルもひるむことなく襲いかかってくるワイバーンに猛攻を加えた。ビジョンの力も借り、誰一人怪我をすることもなく、打ち倒すことができると、ラスウェルはほっとしたように剣をおさめた。
「さすがはワイバーン。なかなか骨が折れる相手だったな」
「うんうん! やったね!」
「とにかく山は登り切ったぞ。本当、飛空艇の有り難みがわかったよ」
レインもそう言って剣をおさめた。次に来ることがあるかどうかはわからないが、あるにしてももう歩いては来たくないものだと、そう思いながらレインは雪の積もる大地を踏みしめた。