砂漠の盗賊団


 フィーナを追いかけて、ついにザデール砂漠に入ったレインとラスウェル。広大な砂漠の前に、多数のテントが張られている場所があり、二人は吸い寄せられるように近づいていった。


「おっ、バザーがあるぞ」

「ちょうどいい。俺が水を買ってこよう。もしものことを今から考えるのは俺の仕事だからな」


 ラスウェルはそう言って、テントの一つへと入っていった。レインはその間、フィーナの消息の手がかりを探すべく、先へと進んでいたが、目の前で何やらたむろしている男達の異様な雰囲気に気付き、足を止めた。


「あの身なり......どう見ても盗賊だな」


 するとレインは避けるどころか、そのままその男達に近づき声をかけた。


「ちょっと聞きたいんだ。この辺で女の子を見なかったか?」


 突然声をかけられた盗賊の頭風の男はいぶかし気な目をレインに向け、しばらく考えるとにやにやしながら答えた。


「知らねえなぁ。その女はお前の恋人か何かか?」

「質問してるのは俺だ。見たか見てないかだけ教えろ」


 レインの言葉を聞くとさっきまでにやついていた頭風の男から笑みが消え、今度はいらついた口調で答えた。


「こっちもお前らにかまっている暇はねえ」


 そう言って踵を返すと、


「さっきさらった女たちだけじゃ、全然、足りないからな」


 と吐き捨て、部下の男達と共に砂漠の奥へと消えていった。


「......さらった女たちだと?」


 レインはしばらく考えていると、後ろから買い物を終えたラスウェルが追いついてきた。


「ラスウェル!」

「水は買っておいた。あいつらを追いかけるぞ」

「ああ!」


 レインが説明をするまでもなく、ラスウェルはすでに事情を把握していたようだった。二人は顔を見合わせ、よしとばかりにうなづくと、盗賊団らしき男達の向かった方向へと走り出した。


「これだけ探しても見つからないんだ。フィーナは盗賊に捕まった可能性が高い」


 レインはそう言って砂漠のモンスターと対峙した。


「最悪の展開になったな......」

「いや、そうでもないさ。広い砂漠をしらみ潰しに探すより、盗賊のアジトを探す方が簡単だからな。とは言っても、グズグズしてる場合じゃないけどな」


 暗い表情のラスウェルに対して、レインは前向きだった。襲ってくるモンスターを倒しながら、盗賊達の残した足跡を追って行く。


「フィーナが連れ去られたとしても、まだそんなに時間はたっていないはずだ。今ならまだ助けられる可能性は高い」

「盗賊のアジトは砂漠のどこかにあるはずだ」

「盗賊を締め上げてアジトの場所を聞き出すか」


 レインはそう言うとにやりとして、子どもの頃の悪巧みをする時のような悪い顔をして見せた。


「くっ......」


 モンスターを倒しながら砂漠を進む二人だったが、ラスウェルは玉のような汗をかいていた。


「ラスウェル? やっぱりお前、まだ体調が......」

「ああ、少し疲労がたまってきたようだ。だが、心配は要らない。フィーナもこの暑さに耐えているはずだからな」

「......ああ。それはそうだけど......」


 ラスウェルはまるで疲労をごまかすようにさらに攻撃の手を強めていった。レインは、自分のことよりフィーナの心配をするラスウェルを見て、少し複雑な気持ちになったが、それでも今は前に進まないといけないと思い、負けじと剣を振るった。


「盗賊だ! ラスウェル! ようやく盗賊を見つけたぞ!」

「よし! 絶対に逃がすな!」


 ついに盗賊の頭と思しき男に追いつき、岩場へと追い込んだ。


「さて、お前たちのアジトの場所を話してもらおうか。これ以上、痛いのは嫌だろ?」


 レインは男に詰め寄ると、腕をブンブン回しながら言った。


「さっさと白状した方がいい。でないと痛い目では済まさなくなるぞ」


 ラスウェルはギラギラと光る刀身を鞘からちらつかせながら無表情で言った。


「わ、わかったよ! 話す! 話すからもう勘弁してくれ!」

「......それならいい」


 ほうほうのていの盗賊はプライドも何もかなぐり捨てて、這いつくばりながらそう言うと、ベラベラとアジトの場所を吐き始めた。ラスウェルはそれを聞くと刀を鞘にしっかりとおさめた。これで解決とレインもにっと笑顔を見せると同時に、ラスウェルがまた崩れるように片膝をついた。


「......くっ」

「おい、ラスウェル? 顔色が悪いぞ。本当に大丈夫か」


 レインが振り返りそう言うと、ラスウェルはまるで何事もなかったかのようにすっと立ち上がった。


「......だから大丈夫だと言っているだろ。お前は俺の心配より、フィーナの心配をしていろ」


 そう言ってラスウェルは踵を返し、先に行ってしまった。


「......あ、ああ」


 レインは妙に気迫のこもったラスウェルの後ろ姿に対して、それ以上は何も口に出せなかった。



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