王都の危機


 グランシェルト城内へ入った二人の目に飛び込んできたのは、にわかには信じられない光景だった。破壊され尽くした城内。打ち倒された兵士達。誰一人動く者はおらず、不気味な静けさが城内を包んでいた。

「うぅぅ......」

 倒れていた兵士からかすかに声が聞こえた。

「大丈夫か? しっかりしろ!」

 レインは瀕死の兵士に駆け寄り、声をかけた。すると、その兵士はよろよろと立ち上がり、片膝をついて報告を始めた。

「民の避難を優先させていたので......。王がまだ避難できていません......」

「わかった。王は俺たちが救出する。お前も避難するんだ」

 レインがそう言うと、兵士は苦渋の表情を浮かべながら言った。

「申し訳ありません......。城を守りきることができずに......。城が落とされてしまったらこの国はもう......」

「心配するな」

「えっ?」

 兵士は、自分の言葉をさえぎるように言ったレインの顔を見上げる。

「王と民がいれば、国は何度だって再建できる。そして、王と民は俺たちが必ず守る」

 レインはそう言ってこぶしを胸に当てると力強く続けた。

「グランシェルトの騎士として」

「そうだ。まだ諦めてる場合じゃない」

 ラスウェルも兵士に近づいてそう言った。

「ありがとうございます。では、あとはお任せします」

 兵士はそう言って立ち上がると、すがるような目で二人を見つめた。

「恐らく王は玉座の間にいる。急ぐぞ」

「ああ」

 ラスウェルとレインは顔を見合わすと、急ぎ玉座の間へと走り出した。

「よし。しかし、実に陛下らしい話だ。民を優先して自分の避難を最後にまわすなんて......。そんな陛下だからこそ、胸を張って仕えることができるんだ」

 ラスウェルはそう言うと、危機的状況にあるにも関わらず、力が湧いてくるような気がした。

「ああ。早く助けにいってやらないとな」

 レインもそう言って、城内に入り込んだモンスターを倒していく。

「しかし、ここまで城内を攻めるとは......。一体、敵は何者なんだ」

 ラスウェルがそう言うと、レインには思い当たる節があるように答えた。

「俺は......。あの鎧の奴が関係している気がする」

「だとしたら手強いぞ」

「今度はビジョンがあるんだ。二度同じ敵にやられてたまるか」

 レインはそう言って剣の柄を強く握りしめると、

「玉座の間はすぐそこだ! 急ぐぞ!」


 と、敵を次々と斬り伏せていった。


「陛下! ご無事で!」


 ラスウェルもレインに続く。玉座の間まであと少し、というところで、行く手をさえぎるように立ちふさがってきたのは、見たことのないモンスターだった。


「くっ! なんだこいつらは!?」

「ラスウェル、気を付けろ! こいつら只者じゃないぞ!」

「わかってる! だが倒さなければ、陛下の元には行けない!」

「ああ! やるしかないってことだ!」


 そう言って敵の群れと対峙する二人。しかし、他のモンスターを束ねている焔の剣士は、炎属性の攻撃を得意とするレインにとっては相性が悪かった。いつもは前衛に立つレインだったが、この場はラスウェル中心に戦闘を展開していき、どうにか打ち破ることができた。

 玉座の間に入ると、すでに多くの兵士達が犠牲になっているのが目に入ってきた。そしてその先、玉座の前にグランシェルト王が倒れていた。それに気付いた二人は急いで駆け寄る。


「陛下! ご無事ですか!」


 ラスウェルがそう声をかけると、王はゆっくりと起き上がった。


「ラスウェル......レインも帰ったか......。私なら大丈夫だ......」


 ラスウェルは跪き、無理に立ち上がろうとする王を支える。さらに何か言いたそうな王の様子を察知したレインは、倒れている兵士全員を見渡し、首を振った。


「そうか......。みな、私を守って......」


 レインも王の前まで近寄り跪くと、悔しそうにうつむいた。


「申し訳ございません。私たちの到着が遅れたばかりに」


 ラスウェルがそう言うと、王は二人の姿をじっと見つめた。


「いや、お前たちが無事でなにより。特にレイン。お前に何かあったら、私はレーゲンに顔向けできん」


 王のその言葉に対し、レインは何も返さず、顔も上げなかった。そして立ち上がると、ラスウェルに向かって言った。


「ラスウェル、陛下を連れて城を出て、外にいる軍と合流しよう」


 黙ってうなづくラスウェル。


「すまない......。世話をかける......」


 二人は王の両脇に立ち、ゆっくりと肩をかける。


「......そうだレイン。お前にこれを渡しておこう」


 そう言って王はレインに何かを渡した。


「これは......?」

「レーゲンからの預かりものだ。時が来たらお前に渡してほしいと。おそらく、今がその時であろう」


 それは魔法の鍵のレシピだった。レインは黙って受け取ると、複雑な表情を浮かべた。王を担いでゆっくりと歩きながら、自分の父に対していろいろな感情がわき起こるレイン。しかし、今は自分の方に乗っている国の主の無事を確保しなければいけない。それがむしろ、自分をコントロールする唯一の重しになっているような気がしていた。



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