父の思い出
「やっとダルナキア平原か。ここを抜ければいよいよグランシェルト城か」
セイレーンの塔を出たレインとラスウェルは、雨の降りしきる平原へとたどり着いた。
「そう言えば、昔、レーゲンさんと3人でここにきたな」
ラスウェルはそう言うと、昔と重ねるようにレインを見つめた。
「レーゲンさんは国王の信頼が最も厚いグランシェルトの騎士だったな」
「騎士としてすごくても、父親としてはどうだか......」
レインは、ラスウェルの視線から逃れるようにしてそう言った。
「何かの調査を始めてからは、フラフラと旅に出てばかり。母さんに苦労をかけたあげくに、最後は旅先で行方不明になって......」
「だけど、信じているんだろ? レーゲンさんがどこかで生きているって」
ラスウェルがそう言うとレインは振り返り、こぶしを強く握りしめながら、
「ああ。生きているって信じているよ。会ったときに一発ぶん殴るためにな」
と言った。そのまま、グランシェルト城の方を向き、
「俺はどうしても許せないんだ。あの勝手な男を......」
と続けると、何かを振り払うかのように走り出した。
「殴りたいと思えるほど許せない父親か」
ラスウェルはうつむきながらそうつぶやくと、
「それでも俺はお前がうらやましい。父親がいるってことだけでな」
先に行くレインの背中を見つめ、そう言って歩を進めた。
「この辺りにもモンスターが出るなんて......」
「城が近いっていうのに......」
「嫌な予感がする......。レイン、急ごう」
行く手を阻むように現れるダルナキア平原のモンスター達。
「くそっ、城が心配だ」
「セイレーンの塔に寄り道していなければ、今ごろは城に着いてたかもな......」
焦るラスウェルに対し、珍しく自分を責めるようなことを言うレイン。
「バカ。つまらないことを気にするな。あのときのお前の判断は正しい。今は急ぐことだけを考えるぞ」
そう言ってラスウェルはモンスターに突っ込んでいく。
「......ああ。すまない。わかったよ、ラスウェル」
レインもラスウェルの後を追いかけた。
「くそっ......急ぎたいのにモンスターが次から次へと!」
「落ち着け、ラスウェル。心を乱せば城に着くのが遅くなるぞ」
「ああ、わかっている。わかっているんだが......」
珍しく冷静さを欠いているラスウェル。そんな彼を見てレインは、
「熱くなって突っ走るのは俺の役目。お前はそんな俺を止める役だろ?」
と言った。
「......ふっ。確かにその通りだな」
ラスウェルはレインのその言葉を聞くと自然と肩の力が抜けるような気がした。
「グランシェルト城の守りは堅い。そう簡単に落ちはしないさ」
レインはそう言いながらさらに斬り進んだ。
「そうだな。それが唯一の安心材料だが......。頼む。俺たちが戻るまで持っていてくれ......」
ラスウェルも逸る気持ちを抑えながらレインに続いた。
「もうすぐ城の東門だ!」
「......!! 城の方角から血の匂いだ。何かが焼けている匂いもする」
グランシェルト城まであと少しというところで、異変に気付くレイン。
「城の周囲にモンスターの群れが見えるぞ」
「ラスウェル、モンスターを蹴散らすぞ! うおおおっ! そこをどけ! 道をあけろ!」
モンスターの群れの中央、巨大な体躯でまるで立ちはだかるように襲いかかってきたのはズーだった。
「俺たちの城にそれ以上、近付くな!」
突っ込むレインに続き、ラスウェルも合わせるように斬り込んでいく。鳥系モンスターであるズーに対して、冷静に弱点を突くビジョンの力を借りつつ撃破する二人。やっとのことで城の東門にたどり着くと、グランシェルト兵達が必死にモンスターに応戦しているのが見えた。
「レイン! 門に群がる敵を一掃するぞ!」
「ラスウェル、待て!」
急ぎ城門に向かおうとするラスウェルを止めるレイン。
「今はあれだけの敵を相手にしている時間はない! まずはなんとかして城に入り、状況の把握をするのが先決だ」
ラスウェルはレインにそう言われ、自分がまた冷静さを欠いていることに気がついた。
「......確かにそうだな」
「幸いなことにまだ門は破られていない。俺たちは門以外から城内に入るんだ」
レインにそう言われ、ラスウェルは城へと入るもう一つの手段を思い出した。
「地下道か!」
「ああ。そうだ。地下道は城壁を北に進んだ先にある」
「ならば、急ごう。門もそう長くはもつまい」
そう言って二人は、城門で奮闘する兵士達に守りを託し、北へと急いだ。