水を飲め!
盗賊の男にアジトを聞き出したレインとラスウェルはザデール砂漠をさらに西へと進んでいた。その途中、オアシスを見つけた二人は一休みすることにした。
「ラスウェルはここで休んでいろ。俺が一人でフィーナを探してくる」
レインは、辛そうな表情で座り込んだラスウェルに向けてそう言った。
「ダメだ。何を言ってる......。お前を一人で行かせられるか......」
そう言って立ち上がるラスウェル。
「ラスウェル!」
「......言っただろう。俺の体よりお前の体の方が大事だと」
そこまで言ったラスウェルはレインの視線から逃れるように後ろを向き、続けた。
「......いや、......何も体に限ったことではない。何もかも俺よりお前の方が大事なのだ」
「あのなあ、まったく意味がわからないんだけど?」
レインはそう言って首をひねった。
「......理解できなくて無理もない。優れている者は劣っている者の気持ちなど、理解できないはずだから」
「ラスウェル?」
ラスウェルはふうっと大きく息を吐き、レインの方に向き直した。
「お前は全てにおいて俺より優れている。それは周知の事実だ」
「おい。そんなことは......」
ラスウェルは黙って首を振ると、静かにレインを見つめた。
「気休めはいらない。お前に俺の気持ちはわからない」
そう言ってオアシスの先の広大な砂漠を見つめると、
「......いや、世界中の誰も俺の気持ちはわからない。さあ、行くぞ。盗賊たちのアジトはあっちの方向だ。さっきの奴らが俺たちに嘘を教えていなければな」
そう言いながらオアシスを後にし、歩き始めた。
「ラスウェル......」
レインは先に進むラスウェルにかける言葉が見つからなかった。今まで見たことのない彼の態度に戸惑いを隠せなかった。しかし、今はそれよりもフィーナの捜索が急を要している。そう自分に言い聞かせながら、ラスウェルの後を追った。
「この砂漠にはアリジゴクが生息しているらしい。巣に落ちて捕まったら、体中の水分を吸い尽くされるぞ。チューチューチューて感じにな」
「チューチューチュー......か......。そんな死に方だけはごめんだな」
「お前、チューチューチューにツッコミ入れる元気もないのかよ......」
レインのボケは華麗にスルーされた。ラスウェルは相当に重症だ、そう思いながらレインはモンスターを倒していった。
「フィーナもいつかは記憶を取り戻すのだろうか」
「そりゃそうだろ。そうでなきゃかわいそうだ」
「そうかな? 記憶を失ったままの方が幸せかもしれん。フィーナの場合はな」
ラスウェルはボソッとそう言った。レインはいつもラスウェルから叱責を食らっていたわけだが、元気のない彼がこんなにめんどくさいとは思いもしなかった。
「ふう。そろそろ砂漠を抜けるころか?」
レインは目の前のモンスターを倒すと、そう言って話題を変えようとした。
「レイン、気を抜くのはフィーナを見つけてからにしろ」
「ラスウェル......お前、やっとフィーナのことを......」
「勘違いするな。俺は骨折り損なことが嫌いなだけだ」
「全く素直じゃないなあ」
つい本音を漏らしてしまったレインだったが、ラスウェルは気にすることなく前へと進んで行った。だいぶ西へと進んだ二人の目の前の地面が突然くぼみ始めた。漏斗状に砂が凹んだ底から、巨大なハサミを持つモンスターが姿を現した。
「出たぞ、アリジゴクだ! ラスウェル! チューチューって吸われるなよ!」
「わかってる! レイン、お前こそ気を付けるんだ!」
そう言って二手に別れた二人はアリジゴクの攻撃をかく乱するように攻め、打ち倒した。
「悪いな。お前にチューチューされるわけにはいかないんだよ」
そう言ってレインは剣をおさめた。
「砂漠ももう抜ける。干物にはならずにすんだようだな」
「ラスウェル、体調は大丈夫か? さあ、盗賊のアジトに乗り込むぞ」
まだまだツッコミの具合は万全とは言えなかったが、少しずつラスウェルは回復してきているとレインは思った。砂漠を抜けたすぐ先に盗賊達のアジトはあるはず。そこに必ずフィーナがいるはず。そう信じて二人は歩を進めた。