最初の仲間


 広大なザデール砂漠を抜け、レキオス丘陵へとたどり着いたレインとラスウェル。


「この丘陵のどこかに盗賊のアジトがあるはずだ。だが、どうやってその場所を探せば......」


 ラスウェルは眼前に広がる丘陵を見渡すと、そう言って大きくため息をついた。


「馬車の車輪の跡を探せばいいさ」


 レインはそう言うと、視線を地面に落として注意深く歩き始めた。


「どうして奴らが馬車を使っているとわかる?」

「砂漠で会った盗賊は『さらった女たち』と言っていた。複数の女の子を怪しまれないように運ぶには馬車が必要だ」

「だが、車輪の跡ならいくらでも道に残っているぞ」


 ラスウェルはレインの考えが今一つ理解できなかった。このレキオス丘陵の先には大港グランポートがあるため、恐らく商用と思われる馬車の轍がそこら中に残っていたからだ。


「馬の蹄が多く並走している跡を追う。盗賊にとっては大切な商品だ。馬車には護衛を多くつけてるはずさ」

「......なるほどな」


 ラスウェルはレインの考えがわかると、早速そのような跡を探し始めた。


「あった!」


 そう叫んだのはレインだった。


「ほら、条件にぴったりのものが見つかったぜ」

「......すごいな。相変わらず大した洞察力だ。お前は昔からそうだ。剣の腕だけではなく頭もキレる......」

「はは。たまたまさ。お前は俺を買いかぶりすぎだっての」


 レインはそう言って笑い飛ばしたが、ラスウェルの目は真剣そのものだった。


「いや、それはお前が自分をわかっていないだけだ。努力ではどうにもならない差が俺とお前との間にはあるのだ。そして、その差の理由は......」


 そこまで言いかけたラスウェルは、何かの気配を感じ、後ろを振り向いた。レインは急に話を止め、何かを警戒するようなラスウェルを不思議に思った。


「いや、なんでもない。よし。車輪の跡を追おう」

「おい。なんだよ。そこまで言ったなら最後まで話せよ」


 レインはそう言って先に進むラスウェルを追いかけた。


「ラスウェル。やっぱり納得がいかない。俺の何がお前より優れてるって言うんだ?」

「それがわからないということが、お前が俺より優れている証なのだ」

「......はあ? 意味がわからないんだけど」

「まあ、もうこの話はいいだろ。フィーナを探すのに集中しろ」


 ラスウェルはレインの方は見ず、そう言いながらモンスターを倒して進んでいった。レインも腑に落ちないながらも、戦闘に集中し、前へと進んでいった。


「......近い。そう遠くない場所にフィーナがいる」


 レインは自信たっぷりにそう言った。


「どうしてわかる?」

「なんとなくのカンだ」

「......あのなあ」


 いつものことながら、ラスウェルはレインの根拠のない自信にあきれるばかりだった。


「盗賊の数が増えてきたな。こいつらが見張りと考えると......」

「ああ。盗賊のアジトは近いぞ」


 案の定、騒ぎに気付いた盗賊達が洞窟の中からぞろぞろと出てきた。かなりの数がいたが、レイン達はひるむことはなかった。


「お前たちがさらった子は全員返してもらう!」

「ほう。たった二人で俺たちを倒す気か?」


 盗賊達はニヤニヤしながら二人を囲い込むように群がってきた。


「貴様らのような卑劣な人間は断じて許さん! 俺たちの断罪の剣を骨の髄まで味わうがいい!」


 ラスウェルはそう言って剣を抜くと瞬く間に盗賊達を切り伏せていった。レインも速かった。盗賊達は許しを乞う暇もなく、あっという間に全滅した。剣をおさめ、アジトと思しき洞窟の前まで近づいていくと、表の異変に気付いた女性達が次々と外へと出てきた。そして最後に、見覚えのある少女がレイン達のもとへ駆け寄ってきた。


「フィーナ! よかった! やっと会えた!」


 レインはそう言ってフィーナの無事を喜んだ。


「レイン! ラスウェル! あのね、聞いて!」


 フィーナが嬉しそうにそう言ってはしゃぐ姿を見たラスウェルは、


「このバカ! どうして勝手な行動ばかりするんだ! レインがどれだけお前のことを心配したかわかっているのか!」


 と、怒声混じりにまくしたてた。フィーナの顔からは笑顔が消え、しゅんとうつむいた。


「ごめんなさい......。でもね......でも......。どうしても、この花が欲しかったから」


 そう言ってフィーナは気まずそうに、後ろに隠していた花を二人に手渡した。


「これって......。陽炎花だ......」


 レインはそう言ってまじまじと渡された花を見つめた。


「よかった! やっぱりこれで正解だったのね! ラスウェルが言ってたでしょ? これがあれば旅も楽になるって......」


 フィーナはそう言って笑顔を取り戻したかと思うと、ラスウェルの顔色を伺いながら、今度は真剣な表情で続けた。


「私、レインとラスウェルの仲間になりたくて......。だから、自分のためじゃなくて、二人のために行動しようと思ったの......」


 それを聞いたレインはしばらく陽炎花を見つめ、フィーナの方を見て言った。


「そうか。それで砂漠に一人で行ったのか」


 ラスウェルも同様に、その手に持った陽炎花を見つめた。


「......フィーナ。バカなんて言って悪かった。今ここに約束する。これからは俺もお前のために行動すると......」


 そう言ってラスウェルはフィーナを見つめると、


「仲間として」


 と大きな声ではなかったが、力強くそう言った。


「ありがとう、ラスウェル。私、すごく嬉しい」


 フィーナはほっとした表情でそう返した。


「......ラスウェル。飲んでみろよ、その花の蜜」

「えっ?」

「ここまで無理をしてたからな。もうフラフラなんじゃないか?」


 レインがそう言うと、ラスウェルはただその手に握った陽炎花を見て黙っていた。


「ホント!? だったら、ラスウェル。飲んで飲んで!」

「遠慮するなよ、ラスウェル」


 笑顔でそう言ってくるフィーナとレインの顔を見て、ラスウェルは観念したように、


「......わかった」


 と一言つぶやくと、陽炎花の蜜を絞って飲んだ。


「......うむ。噂に違わぬ効力だ」


 確かにみるみるラスウェルの顔色が良くなっていくようだった。


「やった! がんばってよかった!」


 フィーナはぴょこんと小さく飛び跳ね、満面の笑みを浮かべた。


「フィーナ、ありがとう。感謝する」


 ラスウェルはそう言って小さく礼をすると、


「うん! これからもよろしくね! レイン! ラスウェル!」


 そう言ってフィーナは二人の手を取り、嬉しそうにぶんぶんと力の限り激しく上下させた。



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