旅立ち
賑やかな港町、ローディーンへと入ったレインとラスウェル。早速船着き場に向かおうと歩いていたその時、
「キャー!」
後ろで叫び声が響いた。
「フィーナ!? お前、どうしてここに?」
振り返って見ると、フィーナがモンスターに襲われていた。
「ラスウェル! フィーナを助けるぞ!」
呆然とするラスウェルに対して、自分はすでに心構えができていたかのようなレイン。フィーナの元へと走り寄った二人は、あっという間にモンスターを撃破した。
「あ、ありがとう......」
おずおずとお礼を言うフィーナ。
「レイン。お前は気づいていたのか?」
「ああ。城を出てからずっとついてきてたぞ」
ラスウェルはそれを聞いて気がまた重くなった。
「だったらどうして城に戻さなかった?」
「俺たちについてくるってことは何か理由があると思ったんだよ」
レインがそう弁明すると、フィーナが間髪入れず二人に向かって思い切って言った。
「あ、あの......私も連れて行って! 絶対に邪魔はしないから!」
ラスウェルはフィーナを見て少し考えると、ハァっとため息をもらした。そして、
「お前があの幻の女だとしてだ。ビジョンの力をくれたのは感謝している。だが、俺たちは遊びに行くわけじゃない。半端な覚悟でついてこられるのは困る」
とそれだけ言って、さっさと歩いて行ってしまった。
「おい、ラスウェル。待て。もうちょっと話を聞いてやれよ」
レインはそう言って、フィーナと一緒に先に行くラスウェルを追いかけた。
結局船着き場に着くまで話を聞こうとしなかったラスウェルは、
「ほら。リディラ行きの船のチケットだ」
と言ってレインにチケットに渡した。
「......まだついてきているのか」
ついてきていたフィーナの方を向いて、ラスウェルがあきれ顔を見せた。
「レインたちは鎧の6人をやっつける旅に出るんだよね? 私も......。私もあいつらをやっつけたいの」
フィーナはそう答えた。
「記憶を失くしたお前が、なぜそんなことを思う?」
ラスウェルがそう聞くと、フィーナは自分の胸に手を当て、うつむきながら、
「心の中にそれだけが強く残ってるの。あの6人を止めなきゃダメだって......。そして、知りたいの。私が何者なのか。どうしてお城の地下にいたのか。なんで不思議な力を持っていたのか」
と答えた。レインはじっとフィーナを見つめると、ラスウェルの方を向いて言った。
「ラスウェル、俺はいいと思うぜ。フィーナを一緒に連れて行っても」
「レイン」
フィーナはまなざしをレインに向けた。ラスウェルは相変わらずのレインの対応に、心中穏やかではなかった。
「お前という奴は......。面倒事が増えても俺は知らんぞ」
「サンキュー、ラスウェル!」
レインは軽い調子でラスウェルに笑顔を向ける。
「レイン......。ありがとう」
「それじゃ、これからは3人での旅だ。きっと楽しくなるぜ、フィーナ」
「はい! レイン!」
ラスウェルは二人のやり取りを見ながら、遊びじゃないと言ったのに、聞いちゃいなかったな、と思いながらも何も言わずに船に乗り込んだ。
船が出航し、フィーナが船室に行っている間に、ラスウェルは甲板に出ているレインに言うことがあった。
「......改めて聞くぞ。なぜフィーナの同行を許した?」
「だって、断れないだろ? 女の子に必死にお願いされたらさ。それにフィーナにはビジョンの力をもらった恩もあるし」
レインはラスウェルの方を見ずに、海を眺めながらそう言った。
「だからこそ俺は心配なんだ。フィーナは只者じゃないぞ」
ラスウェルは顔をこわばらせて言った。レインは視線を海から空へと移すと、そのままラスウェルの方を振り向いた。
「まあな。城の地下に封印されてた子だもんな」
「その封印を解いたのは鎧の連中だ。記憶がないってだけで奴らの仲間って可能性もある」
ラスウェルがそこまで言い切ると、いつの間にか船室から出ていたフィーナが、レインの隣まで歩いてきていた。
「レイン! ラスウェル!」
二人に向かって呼びかけるフィーナ。今の話を聞かれていたのかどうか。そんな不穏な空気が漂う中、真剣な表情でこう続けた。
「この大きな水たまりは海っていうんだって! しかも、水なのに飲めないの! とっても塩辛いんだって!」
レインとラスウェルは呆気にとられた。さっきまで彼女自身のことで深刻な話をしていたのが、なんだかバカらしく思えてきた。
「......ああ、知ってる。フィーナは知らなかったのか?」
レインがそう言うと、フィーナは少し気まずそうに、
「あ、あれ? もしかして......常識なの?」
と答えて頬を赤らめた。
「き、記憶を失くす前は私だって知ってたはずだもん!」
フィーナは一歩下がってそう二人に吐き捨てると、逃げるように船室に走っていった。
「本当はどんな子だとしても、今のフィーナを放ってはおけないだろ?」
レインはラスウェルに向かってそう言うと、グイっと力強く親指を突き立てた。
「グランシェルトの騎士として」
「くっ」
レインにそう言われてしまったら、ラスウェルは返す言葉が見つからなかった。
「まあ、フィーナがいた方が男の二人旅よりかは楽しいぜ、きっと」
そう言ってレインはまた船べりで、波が船にぶつかってくるのを眺め始めた。
「はあ、本当にお気楽な奴だ」
こうして、ラスウェルの心配をよそに、三人を乗せた船は次の大陸へと向かって進み続けた。