旅の手びき
巨大な植物系モンスター、オチューを倒してようやくミトラの町へと着いたレインとラスウェル。二人が町へ入った途端、がっしりとした体つきの男性が寄ってきて嬉しそうに話しかけてきた。
「見ていたぞ、あんたら。オチューを退治してくれたんだな。少し案内したいところがある。ついてきてくれるか」
そう言ってなかば強引にその男性に連れて行かれる二人。黙ってついて行くと、そこは工房のようだった。
「ワシはこのミトラの町の鍛冶工房をまとめておるガイストだ」
「工房?」
レインは自分達がなぜ工房に連れてこられたのかよく分からなかった。
「工房ではレシピと素材があれば、鍛冶やアビリティ精製、調合ができる。オチューを倒してくれた礼だ。自由に使ってくれ」
どうやら、ガイストはクラフトのやり方を教えてくれるようだった。自分達の武具はともかく、これからビジョンの戦士達の装備やアビリティも必要になってくるだろう。そう考えたレイン達は話を聞くことにした。
「練習用に武器のレシピと素材をやろう。あとで試してみるといい」
そう言ってガイストはブロンズナイフのレシピと素材をくれた。突然森の入口に現れたオチューに相当悩まされていたらしい。これでまた素材集めで森に入ることができると喜ぶガイストにお礼を言って、二人は工房を後にした。
「親切な人だったな」
町の中を歩きながらラスウェルは言った。
「ああ。これで道中での戦いがグッと楽になる」
騎士として戦いは専門分野だが、装備品を作るということに関しては今までまったく無関心だったレイン。これからは自分達でなんとかできそうだと思った。
「で、ここからはどうする?」
「そうだな。ダルナキア洞窟を抜けるのが一番の近道だと思うんだが......」
レインがそう言って次の道筋を考えていると、突然空間自体が揺れたように感じた二人。さらに町の南に行ってみると、見たことのない石碑が宙に浮いていた。
「なんだこれは!? 空間が歪んでるぞ!?」
ラスウェルがその石碑周辺の異変に気付いた瞬間、二人は次元の歪みに吸い込まれた。
二人は気がつくと、いつの間にか見知らぬ異空間にいた。
「な、なんだここは......」
ラスウェルが困惑していると、レインが何か閃いたように言った。
「そうか。わかった。これは夢だ」
そしてラスウェルに近付くと、
「ラスウェル。ちょっとお前の頬をつねるぞ?」
と言って、ラスウェルの頬をつかもうとした。
「つねるなら自分の頬にしろ!」
そう言ってラスウェルはレインの手をはたき落とした。そんなことをしていると、またどこからともなく、クリスタルの少女が空中に姿を現した。
「ここは異界......。ビジョンの力を持つ者に更なる試練と恩恵を与える場所......」
そう言い終わると、クリスタルの少女はまた消えていなくなった。二人は呆気にとられていたが、向き合って、なんとか理解しようと考えた。
「えーと。その......なんだ。異界が便利な場所なのはわかった」
レインが言った。
「それ以外のことは全くわからないけどな」
ラスウェルも正直な意見を述べる。
「まあ、便利だから利用する。そんな感じでいいんじゃないか?」
あっけらかんとした口調でそう言うレインに対し、
「しかし、本当にお前はよく言えば前向き。悪く言えば適当だな」
と、ラスウェルは皮肉交じりに言った。それでもレインは気にすることなく、
「さあ、ひとまず元の世界に帰ろうぜ。異界は自由に行き来できるみたいだしな」
と言って、再び石碑に近付いた。次元が歪み吸い込まれるような感覚に包まれたかと思うと、何事もなかったかのようにミトラの町の同じ石碑の前に二人は戻っていた。