愛情ってなに?


「ここを抜けたらナシャトの町だよ」


 エマはフィーナと並んで一歩ずつ石階段を下りながらそう言った。


「そうか。ならばもうひと踏ん張りだ。モンスターは俺たちに任せて、エマは体力を温存しておくんだ。お母さんと会えたときに元気な顔を見せてやるためにな」

「うん」


 エマはラスウェルに言われて、少し申し訳なさそうに返事をした。ここまでも、ずっと守ってもらってばかりで、みんな疲れているだろうにと思いながら。するとフィーナが一歩前に出て、ラスウェルに向かって言った。


「......ねえ。ラスウェルにお母さんは?」


 突然の質問にラスウェルは驚いたが、ふっと笑みを浮かべてフィーナを見て答えた。


「母親か......。それならフィーナと同じだ」

「ラスウェルもお母さんを覚えてないの? 実は記憶喪失だったり!?」


 フィーナはラスウェルも自分と同じなんだ、と思うと少し嬉しくなりそう言ったが、ラスウェルはフィーナに背を向けると、うつむきながらボソッと答えた。


「違う。そうじゃない。母親がいないという意味だ」

「えっ?」


 エマが驚いた声をあげると、ラスウェルはそれ以上は何も言わず、一人歩き始めた。


「ラスウェルは両親をモンスターに殺されたんだ。その頃、ラスウェルはまだ赤ん坊で両親の顔も覚えてないらしい」

「......そうなんだ」


 レインからそう聞かされたフィーナは、自分が不用意に質問してしまったことを後悔した。


「それもあるんだろうな。ラスウェルが張り切ってるのは。自分はどうやってももうお母さんとは会えないから」

「......ラスウェル」


 エマはなんだか胸が苦しくなった。嬉しいのか切ないのか、まだ幼く経験の少ない彼女には、その苦しみの原因がわからなかった。

 渓谷を抜けると切り立った岩々が多くなっており、ゴーザス岸壁と呼ばれるこの辺りでも遺跡の名残がちらほらと見え始めていた。進むにつれ、モンスターの出現率も高くなっていくようだった。


「ラスウェルは両親がいなくてどうやって生きてきたの?」

「なんだ、そんな話を急に」


 ラスウェルはフィーナの方も振り向くでもなく、黙々とモンスターを倒しながら答えた。


「いや、ちょっと気になっちゃって......」

「まったく。今は戦いのことを気にしてくれ」


 ラスウェルはそう言って襲いかかるモンスターを倒しながらどんどん前へと進んでいった。フィーナはエマを守りながら戦ってはいたが、どうにも気になって集中できなかった。


「ラスウェル、さっきの話なんだけど......」

「ああ、どうやって生きてきたかって話か。俺はレインの両親に育てられたんだ。レインの父親......レーゲンさんと俺の父さんが友人だったからな。だから、レインの両親が俺にとっては親代わりなんだ」


 ラスウェルはフィーナが戦いに集中できていないようなので、かいつまんで一気にそう言うと、これで満足か、と言わんばかりにまた戦闘へと戻っていった。フィーナはだいぶ納得できたらしく、それ以上は聞いてこなくなった。


「ん? 今鳴き声が聞こえなかったか?」


 レインがそう言って耳を澄ますと、


「うん! なんか、かわいい声だったね!」


 とフィーナも言った。ラスウェルはそれを聞いて、ふうっとため息をつきながら言った。


「......今のはモーグリイーターの声だ」

「モーグリイーター? それってチョコボみたいにかわいいの?」

「きっと近くにいるはずだ。会えばわかるさ。かわいいかどうかは......」


 フィーナはそう聞いて、エマと一緒になってどんな動物かなとわくわくしていた。それからしばらくすると、地鳴りと共に地面から大きな爪が現れたかと思うと、全身緑色のモーグリイーターが目の前に立ちふさがった。


「こ、これがモーグリイーター!? 全然かわいくない!」


 フィーナはそう言ってモーグリイーターを指差しながらブーブーとわめきたてた。


「かわいくないだけじゃない。こいつはかなり凶暴で手強いぞ」


 ラスウェルはそう言って剣を構えた。


「だけど倒さなきゃ先に進めないんだ! やるしかないぜ!」


 レインもそう言ってラスウェルと目で合図すると、同時に斬りかかった。モーグリイーターの大きな両腕から繰り出されるパンチや爪での攻撃を避けながら、ダメージを与えていくレイン達。これまでの戦いで確実に成長している三人にとって、凶暴で有名なモーグリイーターももはや難敵ではなくなっていた。


「モーグリイーターも倒したし、これでナシャトの町に辿り着けるな」


 広い場所に出てようやく一息つくと、ラスウェルはエマにそう言った。


「そ、そうだね」

「どうしたんだ? お母さんと会えるかもしれないのに」

「う、うん......」


 エマの様子がなんだかおかしかった。レインもそれに気付き、彼女の顔をのぞき込んだんだが、どうにも暗い表情だった。


「きっと不安なんだよね! でも大丈夫! 町に行ってみよう!」


 フィーナはそう言ってエマの手を取り、歩き始めた。レインもラスウェルも心配ではあったが、今はフィーナの言う通り、まずナシャトの町に行ってみないと始まらない、そう思いながら先へと進んだ。



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