急がば回れ


「パラデイアの六盟傑はなぜランゼルト遺跡を目指してるんだ? そもそも、あいつらがクリスタルを破壊する目的ってなんだ? フィーナはわからないよな?」


 吹雪はおさまるどころか、激しさを増していた。岩陰で足を止め、体を休めるついでにレインはそう言ってフィーナの方を見た。


「うん。ごめんね。わからない」


 フィーナは申し訳なさそうにうつむきながら答えた。


「あいつらは富を得ようとしたわけでも、革命を起こそうとしたわけでもない。だからこそ俺には、あいつらが危険な存在に思えるんだ」

「......そうだな。俺も同感だ」


 レインの言葉に同調するようにラスウェルもそう言ってぐっとこぶしを握り締めた。


「じゃあさ、あの鎧の男を捕まえて全部喋らせるしかないね!」


 フィーナは真剣な表情の二人とは裏腹に、まるで楽しそうにそう言った。そして三人は再び険しい雪道を歩き始めた。


「パラデイアの六盟傑もこの道を通ったんだろうか?」

「遺跡への道は間違っていないはずだ。雪原ラットの巣穴をちゃんと追ってきているからな」


 かろうじて道と思しき道を歩いていたが、ラスウェルは人が通ったような痕跡がないことに若干の不安を覚えていた。レインの言う通り、雪原ラットの巣穴は雪道に沿うように点々と続いていたのだが、


「でも、それじゃ鎧の人に追いつけないよね」


 とフィーナがもっともなことを言った。


「確かにそうだ。近道でもあればいいんだがな」


 ラスウェルはそう言ってモンスターを倒しつつも他に道がないかを探し始めた。


「ねえ、イチかバチか近道してみたらどうかな」

「いや、それはダメだ。近道をして道に迷えば、結局は遠回りになる。だから、そんな時、人は急がば回れという!」

「そ、そうなんだ! すごい! 初めて知った!」


 レインがしたり顔でふふんとそう説明すると、フィーナは目を丸くして小さく拍手をした。


「別に大したことは言っていないけどな」


 ラスウェルはそのやり取りを横目で見ながらボソッとそう言った。

 しばらく歩いて行くと、その先には大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。道もその洞窟に向かうように続いており、ようやく吹雪から解放され一安心したかと思うと、


「......なんか。嫌な予感がする」

「......私も嫌な予感がする」


 とレインとフィーナがまるで口を合わせるように続けざまにそう言った。


「何!? 嫌な予感が2つ重なっただと?」


 ラスウェルはそう言って二人を見た。


「......俺のカンでは、この先にやばいモンスターが待ち構えている」


 そう言いながらレインは目の前のモンスターを倒しながら進んでいった。レインの言うやばいモンスター。しかもフィーナまでもが嫌な予感がすると言ったそのモンスターは、凄まじいおたけびと共にその巨大な姿を現した。


「出たぞ! ドラゴンだ!」

「マジかよ......。こんなところで会うなんて」

「ああ......。嫌な予感が当たっちゃった......」


 モンスターの最上位クラスと言っても過言ではない、ドラゴン。レイン達の目の前に現れたのは、雪狼の牙の主と言っても差し支えのないフロストドラゴンだった。


「くそ! 相手がドラゴンでもやるしかない!」


 自分の縄張りに突如侵入してきたレイン達に激しい敵意を向けて襲いかかってくるフロストドラゴン。その巨大な牙で噛みつき、激しい叫びにも似た鳴き声は三人の感覚を激しく狂わせた。どうにか態勢を持ち直したラスウェルとフィーナが支援にまわり、属性的に優位なレインのクリムゾンセイバーによってダメージを負わせると、その巨躯は激しく地面に叩きつけられるように墜落した。


「なんとか倒すことができたね!」

「さすがにしんどかったな」


 氷の洞窟でのドラゴンとの死闘を終え、ひとまずモンスターのいない場所で息をつきながらフィーナとレインは余韻にひたっていた。しかし、ラスウェルだけは神妙な顔つきで自らの愛刀、紫電を見つめていた。


「確かに今のモンスターは強かった。しかし、ここで苦戦しているようでは、鎧の奴に勝つことなど......」

「ラスウェル。戦う前から負けることを考えてどうする?」


 レインはラスウェルに向かって強い語気でそう言った。


「それはそうだが......」


 ラスウェルはフロストドラゴンとの戦いで、完全にレイン頼みの戦いになっていたことを引きずっていた。その時、フィーナが何かを発見したらしく、洞窟の奥に向かって小走りし、二人に向かって叫んだ。


「あっちに灯りが見えるよ!」

「前のように野盗かも知れんが......」


 ラスウェルはいまいち乗り気にはなれなかった。


「とりあえず行ってみるか」


 レインはそう言ってラスウェルの肩を軽く叩き、その灯りの方へと歩き始めた。



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