少女の気配
西門をくまなく探したラスウェルだったが、レインの姿は見当たらなかった。もしやと思い、城門を出て、フラン街道の方を見やると予感は的中した。
「レイン、探したんだぞ! 一人でどこへ行こうというのだ!」
そう言って声をかけるラスウェルの方を振り向きもせず、レインは少し間を置いて、
「俺はあの鎧の連中......。パラデイアの六盟傑を追う」
と言った。
「バカな! 騎士の責務を放棄する気か!? 人命救助やモンスターの掃討は一通り終わったが......。俺たちは復興作業を指揮し、一日も早く城や街を元の形に戻さねばならん!」
ラスウェルがまくしたてると、レインは黙って振り向いた。
「すまない、ラスウェル。でも、気持ちが抑え切れないんだ。あの鎧の奴に負けたままなのが悔しくて我慢できなくて......。こんな気持ちは初めてでさ。自分でも驚いているんだ」
静かにそう語るレインの言葉を、ラスウェルはただ黙って聞いていた。
「鎧の奴はビジョンを警戒していた。だったらあいつを止めれるのは俺だけだ。街の復興は他の騎士でもできる。俺は俺のやるべきことをしたい。わかってくれ、ラスウェル」
レインはそう言ってラスウェルをじっと見つめた。ラスウェルはハァっと大きくため息をもらすと、
「......奴らは去り際に他のクリスタルへ向かうと言っていた。ここから一番近いところだと、ディルナド大陸の風のクリスタルだ。まず港町ローディーンに行き、そこから船でランゼルトに向かう」
と言った。それを聞いてレインは驚いた。
「ラスウェル......。お前も一緒にきてくれるのか?」
「当然だ。お前のお守りができるのは俺しかいないからな」
ラスウェルはレインの視線から逃げるように、背を向けてそう言った。
「ありがとな、ラスウェル」
レインがそう言い終わると、ラスウェルは振り向き直し、二人はフラン街道を歩き始めた。その二人を追うように後ろからついて来る人影。それは、救護兵に預けたはずのフィーナだった。
「港町ローディーンはこの街道の先にある」
ラスウェルがそう言うと、レインは黙り込んだ。
「どうした? 何か気になることでも?」
「いや、なんでもない。先に進もうぜ」
きっと、あのことだろうと思いながら、ラスウェルはモンスターを倒しながら進んでいった。
「パラデイアの六盟傑......。あの連中は一体何者なんだ? まさか......。全てのクリスタルを破壊するつもりか? だとしたらなんのために?」
ラスウェルはまるで独り言のようにそう言った。
「わからないことだらけだな。ただ1つハッキリしてるのは、奴らがろくでもない連中だってことさ。......どういうつもりなんだ?」
「ん? レイン、なんか言ったか?」
「えっ? いや、なんでもない」
レインはモンスターと戦いながら、後ろをちらちらと見ていた。
「......あの子、どこまでついてくるつもりだ?」
「だから、何一人でぶつぶつ言ってるんだ?」
ラスウェルは戦闘に集中しきれていないレインを横目で見ながらそう言った。他にもまだ何かあるかと思いさらに続けて、
「そうだ。フィーナのことだ。いろいろと落ち着いたらじっくりと話を聞かないとならんな」
と言うと、レインはにっと微笑み、
「まあ、すぐに聞けるさ。本人に直接な」
と答えた。
「ん? それはどういう意味だ?」
ラスウェルはいまいち会話がかみ合わないような気がしたが、今は敵を倒すことに専念することにした。
「この辺の敵は全部、倒していこうぜ」
「めずらしいな。お前がそんなことを言うなんて」
「安全を確保しておかないと後からついてくる子が危ないだろ」
「後からついてくる子? 何を言ってるんだ、お前は?」
ラスウェルはますますレインの言葉の真意がわからなくなってきたが、敵を一掃することには賛成だった。町が見えてきたあたりで、モンスターに混じって襲ってくる盗賊のしたっぱを倒すと、ラスウェルはあたりを見渡した。
「よし。これでこの周辺は安全だ」
そう言って刀を鞘におさめるラスウェル。
「港町ローディーンも見えてきたな。よおおおし! ローディーンに向かって出発だあああ!」
「って、レイン。お前、大声で誰に言ってるんだ?」
とても自分に向けて言っているようではない、大声で叫ぶレインに違和感を覚えるラスウェル。もしかして自分には見えない何かがレインには見えているのか、とかそんなことを思いながら、ローディーンへと入って行った。