地獄の火炎
次の大陸に進むため、リディラ行きのチケットを用意していたラスウェルだったが、どうやら直行便ではなかったようだ。北東にある島、オードル港経由で、しかも寄港時間が思ったよりも長かった。そこでレインとラスウェルはフィーナを港で待たせている間、島の北にある炎風の洞窟に向かうことにした。
「おい、レイン。ここに来たからには、幻獣と戦う覚悟があるんだな?」
「仲間は、多いほうが心強いだろ?」
この洞窟に来た理由は新たな戦力を得るため。オードル港のにいた島民から、この島の洞窟に幻獣がいるという話を聞いていたのだ。これから戦うことになるであろうパラデイアの六盟傑と名乗った者達に対して、多少時間をかけてでも勝利の可能性を高めておきたいというレインの案だった。
「......念のため言っておくが、ここにいるイフリートは極めて獣に近い幻獣だ。セイレーンのように美女でもなければ、話が通じる相手でもないぞ」
「そうなのか!?」
ラスウェルの言葉に対し、驚くレイン。
「......騎士になるときの座学試験で学んだだろう」
「ああ......座学......苦手だったな......」
「......それでも、騎士に合格できるんだから、お前は大したやつだよ」
あきれるのを通り越して、もはや尊敬の域に達するとラスウェルは思いながらも、レインと肩を並べて溶岩の流れる洞窟の奥へと進んで行った。
「......暑い、ラスウェル」
「俺に言うな。溶岩のなかで、暑くないわけがないだろう」
「お前の暑苦しい服装を見てると余計に暑くなるんだよ」
レインはコート姿のラスウェルを横目で見ながら言った。
「言いがかりはよせ。俺だって暑いんだ」
だったら脱げば良いのに、とレインは思いながらも道中に現れるモンスターを倒していった。
「......イフリートは炎の攻撃を使うんだろ?」
レインは汗を拭いながらラスウェルにそう言った。
「そうだ、炎の幻獣だからな。なんだ、きちんと覚えているじゃないか」
「この溶岩のなかで、炎の攻撃をされたら、よけい暑くなるよな?」
「だから何だ」
「せめて服を脱いで見た目だけでも涼しく......」
「なるか!」
遠回しに服を脱ぐように伝えたつもりのレインだったが、ダメだった。どんな時でも決してコートを脱ごうとしないラスウェル。なぜそんなに頑ななのか、いつか突き止めてみたいと一瞬思ったが、今は一刻も早くこの洞窟から抜け出そうと考え直した。
「グオオ......。我が眠りを妨げるは、誰ぞ......」
洞窟の最奥部で目を覚ますイフリート。周りの溶岩のように真っ赤な体躯に鋭い爪。まさしく、炎の獣のようないでたちだった。
「なんだ、しゃべれるじゃないか。なら話は早い、イフリート! 俺たちに力を貸してくれ」
言葉を話すイフリートにそう叫ぶレイン。意思の疎通ができるじゃないか、そう思っていると、
「グ......ガァ......聴こえぬ......何も聴こえぬ!! そこの者! 我が声が届くならば、この炎ごと我を討て!! この忌まわしき炎のくびきより我が身体を解き放ち、汝の力とするがよい!!」
と一方的に言葉を投げかけ、凄まじい炎と共に襲いかかってきた。やっぱりそうなるのかと、覚悟はしていたレイン達。炎による攻撃に加え、まるで獰猛な獣のような爪での攻撃も強力だった。得意技の地獄の火炎もどうにか耐え凌ぎ、イフリートを打ち破ることができた。
「おお......永きにわたる炎の封印は解けた......。盟約を果たし、汝らの力となろう」
イフリートがそう言うと眩い光に包まれ、その身体は石像のようになった。それと同時に、レイン達に炎の幻獣の力が宿ったのを確かに感じた。
「......あいつも暑がってたな」
レインはラスウェルの姿を見ながら言った。
「そんな能天気なものか。イフリートは、炎によって封印された幻獣なのだ」
「......恐ろしい話だな。こんなところは、さっさと抜けだそうぜ」
そう言って二人は、フィーナの待つオードル港へと引き返した。