仲間ってなに?
「この河口の近くに小さな村があったはずだ。そこで砂漠越えの物資を調達するとしよう」
魔霊の森を抜け、ランゼルト河口のほとりを歩きながらラスウェルは記憶を頼りに村を探し始めた。前を歩いて行く二人の後ろ姿を見ながら何やら考え込んでいたフィーナは、歩みを止めて気になっていたことを問いかけることにした。
「ねえ、レインとラスウェルは今までもずっと一緒に行動してたの?」
「まぁ、幼馴染だからな。小さいころから同じ家で育ったし」
レインはフィーナの方に寄りながらそう答えた。
「幼馴染?」
「一緒に悪さをした仲間でもあり、一緒に怒られた友達ってことさ」
「悪さをしたのも怒られたのもお前だけの方が多かったけどな」
したり顔でそう説明するレインの言葉を聞いて、ラスウェルは憤慨するように口をはさんだ。ここまでの間のやりとりや戦闘を見てきたフィーナ。そして今、言い争ったりしながらもまったく嫌な感じのしない二人を見てさらに深く考え込み、ぽつりとつぶやいた。
「仲間、友達......。ちょっとよくわからない......」
「まあ、立ち話もなんだ。早く村に行って休もうぜ」
レインはそう言って歩き出すと、フィーナはうつむいたまま小さくうなづき、レインについて行った。
「そうか。友達が何かわからないのか。......それは寂しいことだな」
ラスウェルはフィーナの後ろ姿を見ながらそうつぶやくと、二人の後を追って歩き出した。
「仲間って何? 友だちってどういう人? レイン、ラスウェル。私に教えてよ」
いくら考えてもフィーナは納得できないでいた。村に着くまでどうにも我慢できず、再びそう質問してくる彼女をちらちらと横目で見ながら、レインはモンスターを倒していた。
「そ、そうだな......。改めて聞かれるとちょっとな......」
返事に詰まるレイン。
「自分のためではなく、そいつのために行動できる。それができる相手が仲間であり友人だ」
「......もっと簡単に言うと?」
「充分、簡単に言ったつもりなんだが......」
レインをフォローするように会心の答えを述べたつもりのラスウェルだったが、フィーナはいまいち理解できていなかった。
「じゃあ、レインは自分のためじゃなくて、ラスウェルのために行動できる?」
「ああ。俺はいつもそうしてる。なあ、ラスウェル?」
レインはそう言ってラスウェルに目配せしたが、
「......まあ。お前がそう思っているのならいいんじゃないか。そういうことで」
ラスウェルの返事はどこか乾いていた。
「ラスウェルはレインのためにいっぱい行動してるよね」
「レインはグランシェルトの歴史に名を刻むような騎士になれる男だ。騎士としての実力は申し分ない。あとは人間としての器量だ。王からは信頼され、国民からは慕われる。そのためには礼儀作法や知識などを......」
「身に着けなければいけないんだろ? はあ。しんどい話だよな。全く」
レインはうんざりした表情で大きくため息をつきながら言った。
「心配するな。そのためのサポートは俺がしてやる」
ラスウェルはそう言いながら振るう剣に力を込めた。
「自分のためじゃなくて、その人のために行動する......。それができたら、その人と仲間になれるってこと?」
「まあ。そうだな。それで仲間になれないのなら、そいつはかなり嫌な奴ということだ」
「ふーん。わかった」
ラスウェルはようやく納得した様子のフィーナを見て、ほっと胸をなでおろした。そうかと思うと突然、河口の奥から魚のようなモンスターの群れが襲いかかってきた。フィーナの質問に答えることに比べれば、これぐらいのモンスターは彼らの敵ではなかった。早々に倒すとその先にようやく人家が見えてきた。
「村が見える。あそこで休憩だな」
レインは剣をおさめるとそう言った。
「ああ。だが、あまりゆっくりはしていられないぞ。いいな、フィーナ」
「......う、うん」
そう釘を刺すラスウェルの言葉を、まるで避けるように目をそらしながらフィーナは返事をした。