ルナティックボイス
セイレーンの塔にたどり着いたレインとラスウェル。
「......ラスウェル。......感じたか?」
レインはラスウェルの方を振り向くと、そう言った。
「ああ。こいつはまずいな。塔の最上階から異様な気配を感じる」
ラスウェルが険しい表情でそう答えると、レインは反対にうきうきした様子だった。
「よし。じゃあ、挨拶しに行こうぜ」
「本気か?」
「もちろん。美女にトゲはつきものだろ?」
そう言ってはしゃぎながら上の階に続く階段へと走って行くレイン。
「......後悔しても知らんぞ」
ラスウェルは複雑な気分を抱えながら、レインの後を追って行った。
「以前、この塔にモンスターは出なかったはずだ。クリスタルが破壊された影響がこんなところまで......」
塔の各階でたむろするモンスターを発見したラスウェルがそう言った。
「まぁ、悪いことばかりじゃないさ。伝説の美女も甦ったわけだし」
レインはそう言うと、いつもよりも力の入った大剣を振るう。
「レイン。念のために言っておくが、セイレーンは幻獣だ。つまり、とびっきりの美女と言っても獣であり人間じゃないんだぞ?」
「見損なうなよ、ラスウェル。獣でもなんでも美しければ問題なしだ!」
「......ああ、そうかい」
ラスウェルはふうっと息を吐き出すと、忠告した自分がバカらしく思えた。
「モンスター、邪魔をするな! 早くセイレーンに会わせろ!」
「セイレーンには人を惑わす力があると聞くが......。会う前から惑わされる奴がいるとは思わなかったぜ」
ラスウェルは普段より張りきって戦闘するレインを見ながら言った。
「ん? それって俺のことか?」
「他に誰がいる!?」
ラスウェルもイライラをぶつけるようにモンスターを倒していく。
「最上階はまだまだかよ......。でも、俺はくじけない。伝説の美女のご尊顔を拝むまでは!」
「言っておくが、その美女は俺たちを攻撃してくるかもしれないんだぞ?」
無駄だとはわかっていながら、再び忠告するラスウェル。
「バカだな、ラスウェル。それもまたいいじゃないか!」
そう言って目を爛々と輝かせるレイン。こいつは本当に何か術でもかけられているんじゃないだろうか、と思うラスウェルだったが、それ以上は何も言うまいと黙ってついて行った。
ついに最上階へとたどり着いた二人。目の前には四つの球に囲まれた結界のような場所があり、その中央にセイレーンと思しきモンスターが待ち構えていた。
「相手は幻獣......。ただのモンスターじゃない。ただ、俺は戦う前から負けることなんて考えてないぜ」
「そうだな。たとえどんな強敵でも恥じない戦いをせねばな。グランシェルトの騎士として」
レインとラスウェルがそう言って構えるや否や、有無も言わさず襲いかかってくる翼の生えた女性型モンスター。
「きたぞ、レイン! セイレーンだ!」
「なるほど。確かにこれはすごい美女だ。だからこそ、男としては強いところを見せないとな。よし、燃えてきたぜ! やるぞ、ラスウェル!」
セイレーンの水系の攻撃をかいくぐり、無事倒すことができた二人。
「やれやれ。確かにすごい美女だったな」
レインはそう言って剣をおさめた。
「ああ。ともかく勝ててよかった。これもビジョンの力のお陰だ」
「ビジョンの力をくれたクリスタルの女の子に感謝しないとな」
「それとレーゲンさん......。お前の父さんにもな」
ラスウェルがそう言うと、レインはうつむきながら、
「......ああ。まあな」
と小さな声ぼそっと言った。
「見事です。強き者よ」
突然、倒したはずのモンスターから美しい声でそう語りかけられ、二人は驚いた。
「私の名はセイレーン。あなたたちが幻獣と呼ぶ者です。力を制するにはより大きな力。それもまた真理の1つ。この私を恐れることなく真正面から倒す者を待っていました。あなたたちに私の全ての力を託しましょう。力から目を背けることなくまた別の真理を探る道をともに」
セイレーンは二人に向かってそう言ったかと思うと光輝き、本体は石像のようになってしまった。
「......まさか。セイレーンの力を手に入れるなんて」
レインはそう言って、自分達に幻獣の力が宿ったことを実感した。
「ああ。大きな力だからこそ慎重に使わないとな......」
ラスウェルもその身に宿った力の大きさに驚きを隠せなかった。興奮というよりも、むしろ恐れを感じた彼だったが、レインの表情は恐れとは全く無縁どころか、むしろ緩んでいた。
「ああ。わかってる。女の子の扱いなら任せておけって」
「任せておけ? 俺の記憶ではレインが女の子と付き合った経験はないはずだがな」
全く危機感のないレインに対して、そう言い放ち早々と出口の方へと歩き出すラスウェル。
「......今の一言。セイレーンの一撃より効いたぜ......」
レインはそう言いこぼすと、とぼとぼとラスウェルの後を追いかけた。