ランゼルト遺跡へ
大港グランポートから北に、ランゼルト山脈のふもとまで来たレイン達。
「でかい山脈だなぁ......」
レインはそう言って目の前にそびえ立つ山々を見上げると、ラスウェルの方を向き、神妙な顔つきで続けた。
「念のために確認するけど、この山脈を歩いて越えるのか?」
「飛空艇がないんだ。仕方ないだろう」
「なんてこった......」
レイン達の乗っていた飛空艇はヴェリアスによって修復不可能なほどに破壊された。かつてのように自由に大空を移動する術は失われてしまったことを、レインは改めて痛感した。
「山脈を越え、雪原を抜けたらランゼルト遺跡に着くはずだ」
ラスウェルは事もなげにそう言うと、レインはがっくりと肩を落とした。
「誰か、冗談だって言ってくれ......」
「じょーだん!」
すかさずフィーナが笑顔でそう言うと、レインは彼女の顔を見て何かわからないが愉快になってきた。
「そうだ! これは何かの冗談だ!」
「じょーだん!」
レインが冗談、というとそれに続いてフィーナがじょーだん! と、笑いながらステップを踏み、まるで終わりの見えない二人のやり取りを眺めていたラスウェルは大きなため息を吐き出した。
「バカなやり取りしてないで行くぞ。辛かったら訓練だと思えばいいんだ」
そう言って追い払うようにレインとフィーナを歩かせるラスウェル。この先が思いやられながらも、自分が二人のケツを叩かなければ、と改めて気を引き締めた。
「ん?」
山道に入って早々、フィーナが何かに気を取られた。
「どうした、フィーナ?」
「なんだろう、これ......。気のせい? ううん、違う」
「おい、フィーナ。戦いに集中しろ」
目の前のモンスターより、あきらかに違う何かに意識を向けているフィーナ。レインとラスウェルは、そんな彼女をカバーするようにモンスターを倒していく。
「やっぱり、気のせいじゃない。私たち誰かに見られてる」
「なんだよ、急に。気持ち悪いこと言わないでくれ」
レインはそう言うとブルブルっと身震いした。
「気持ち悪いも何も、モンスターにじっくり見られているじゃないか」
そう言って襲い来るモンスターを蹴散らすラスウェル。
「うーん」
「どうした、フィーナ。また誰かに見られてる気がするのか?」
レインがモンスターと対峙しながらフィーナにそう聞くと、顔を動かさず目だけをきょろきょろさせながらレインに答える。
「見られてるっていうか......。あとをつけられてる気がする」
「あとをつけられてる?」
「......だとしたら警戒が必要だな」
そう言ってラスウェルはレインと顔を合わせ、後ろにも注意を払いながら前へと進んでいった。山道も登りきろうかというところ、少し広い道に着くと、そこで待っていたかのように巨大なモンスターが群れをなして襲いかかってきた。
「わあ、大きなクマさん!」
「こいつはクマさんなんて可愛いもんじゃないぞ!」
「ああ。やらなきゃやられちまうぜ!」
一見大きな熊のように見えたプルシャという凶暴なモンスター。確かに、全身を覆っている毛はもふもふしていたが、それとは対照的な鋭い爪を振り上げ、レイン達を襲ってきた。事前に警戒をしていた三人は攻撃をかわしながら、ほぼ同時に群れを撃破した。
「あっ。誰かに見られてる感じが消えた......」
「そっか。さっきのクマが正体だったのか」
「フィーナ、お前のお陰で助かった」
レインもラスウェルもふうっと気を緩め、フィーナの方を見た。
「周囲の気配に敏感なのはフィーナの特技と言ってもいいかもな」
「やった! 私にも特技ができた! これからもドンドンモンスターの気配を感じとっちゃうからね!」
レインに褒められたフィーナはぴょんぴょん飛び跳ねながらそう言うと、二人に向けてブイサインをして見せた。