フィーナの好奇心
港町リディラを出てすぐに見える、さびれた街道へと出たレインとラスウェル。
「やれやれ。町に着くなりこれか」
ハァっと大きくため息をつきながらラスウェルは言いもらした。
「まあ、そう言うなって。記憶がないんだから仕方ないだろ」
あっけらかんとした様子でそう言うレインを見て、ラスウェルはさらに表情を曇らせた。
「......レイン。お前はフィーナに甘くないか?」
「え? そうか?」
「ああ、甘っ甘だ。まあ、お前の気持ちもわからないでもないがな......」
「どういう意味だよ」
レインは意味深なことを言うラスウェルに詰め寄って聞き返した。
「お前とフィーナは似ている。だからお前は感情移入してしまうのだ」
「俺とフィーナが似ている? どこが?」
レインは思ってもみなかったラスウェルの意見に首をかしげた。
「フィーナは記憶を失くしていて、自分が何者なのかを知りたい。レインが騎士になったのは、消えたレーゲンさんを探すため。お前たち2人は、人生において重大な探し物があるというわけだ」
「あのなあ。勝手に決めつけるな」
レインはそう反論すると、ラスウェルに背を向けた。
「俺はフィーナを見ていると力を貸してやりたくなるだけさ」
そうつぶやくレインの後ろ姿を見て、ラスウェルはこれ以上この話題に突っ込まない方が良いと思った。
「まあいい。ならさっさと行くとしよう。今の探し物はフィーナ。それは確かなことだからな」
ラスウェルはそう言うと、レインと共に街道の先へと歩き始めた。
「しかし、フィーナはなぜチョコボを追って町を出たんだ?」
ラスウェルは街道に現れるモンスターを倒しながらそう言った。
「きっと今のフィーナにとっては見るもの全てが目新しいのさ。ラスウェルだってチョコボを見るのが初めてだったら興奮するだろ?」
「バカな。俺はチョコボぐらいで興奮はしない!」
レインの言葉を否定しながらも、なぜか剣を振るう手に力が入るラスウェル。
「そうだ、ラスウェル。チョコボと言えば......」
「ああ。子供の頃、よくお前と一緒にチョコボを追いかけまわしたな。あまりにも夢中になりすぎて。森で迷子になったこともあったな......」
するとラスウェルはハッとして続けた。
「そうだ。思い出した。夢中でチョコボを追いかけている内に、俺たちは全く知らない場所にいた。俺たちが不安のあまり泣きべそをかいていると......」
「その話はいいって......」
レインはそう言って会話をさえぎろうとしたが、ラスウェルは構わず続けた。
「2人で泣きべそをかいていると、レーゲンさんが探しにきてくれた。あのときは嬉しかった」
「そうか? 俺はお節介だと思ったけどな。ただ、誰かに迎えにきてもらえると、お前みたいに安心する人がいる。だからフィーナもちゃんと迎えにいってやらないと」
「......そうだな。わかったよ」
ラスウェルはその時の不安と安心感を思い出すと、フィーナに対するいら立ちも徐々にだがおさまっていった気がした。
「まずいな......」
「どうした?」
辺りを見渡しながらラスウェルは顔をしかめた。
「この辺りはチョコボイーターが出没するという場所だ。チョコボを追いかけていると一緒に襲われる可能性があるぞ」
「くっ! 早くフィーナを見つけないと」
レインはそう言うと、進む速度を加速させた。
「今、チョコボの鳴き声がしたぞ!」
レインはかすかに聞こえた鳴き声に気がついた。
「ああ。この先でチョコボが襲われているかもしれない」
「急がないと! フィーナが危ない!」
そう言って二人は街道のモンスターを蹴散らしながら、さらに急ぎ足で鳴き声の聞こえた方へと向かった。
「グランシェルト城で使った力が今のフィーナにあれば......」
「確かにあの力があれば、チョコボイーターとも戦えるだろうが......。あれ以来、フィーナはあの力を出していない。ということは......」
「記憶がない状態ではあの力は使えないんだろうな」
レインの頬を冷たい汗が流れ落ちた。そして、街道の奥までたどり着いた二人の前に、地響きと共に長く鋭い爪を持つ巨大なモンスターが土に中から現れた。
「くっ! やはりチョコボイーターだ!」
「フィーナ!? フィーナは!?」
レインがそう叫ぶと、
「レイン! ラスウェル!」
フィーナの返事が確かに聞こえた。
「よかった! フィーナは無事だ!」
「だったら、さっさとチョコボイーターを倒すぞ!」
安堵するレインにそう言うと、ラスウェルは真っ直ぐチョコボイーターに突っ込んだ。
鋭い爪の攻撃をかいくぐり、あっという間に打ち倒した二人は、その先にフィーナの姿を見つけた。
「あ、あのね......」
そう言って二人と目も合わさずもじもじするフィーナ。
「町で変な鳥を見かけて後をついていったらこんなことに......」
レインとラスウェルはフィーナの方は見ず黙ったまま、顔を見合わせていた。
「ごめんなさい......」
フィーナがそう言って泣きそうになっていると、
「その変な鳥はチョコボって言うんだ。可愛かっただろ?」
と、レインが笑顔で言った。すると、さっきまで曇り顔だったフィーナはぱぁっと明るくなり顔を上げた。
「うん! 不思議な匂いがして面白かった!」
それを聞いたラスウェルは怒りをあらわにして言った。
「面白かったじゃない! 急いで町を出たから、水や食料の確保も不十分なんだぞ」
それを聞いたフィーナは慌てながらも、
「あ、あのね、私ならごはんを食べなくても平気だから!」
と威勢よく言ったかと思うと、それに負けないくらいの大きさでお腹の虫が鳴り響いた。
「あっ......これはその......」
そう言って顔を真っ赤にしながらあたふたするフィーナ。
「......ぷっ。くくくくくっ!」
レインはそんなフィーナの様子を見て吹き出しそうになったのを、どうにか後ろを向いてこらえた。ラスウェルは二人を見ていると、一人でいら立っていた自分がバカらしく思えた。
「......途中の村で食料を分けてもらうしかないな」
ラスウェルはそれだけつぶやくと、スタスタと先に歩いて行ってしまった。
「......ごめんなさい」
フィーナは先に行くラスウェルの背中に向けて小さくそう言うと、レインと二人で後について行った。