ディルナドへの経路
「船が出せない?」
レインはそう言うと、いぶかし気に船員の顔を覗き込んだ。
「ディルナド行きの航路近くでリヴァイアサンの目撃情報があってな。悪いが、安全が確認できるまで船は出せないよ」
船員はそう言って首を横に振った。その表情から察するに、交渉してどうこうできる問題ではないと悟ったレイン達は、渋々その場を離れた。
ゴーレム、シヴァと頼もしい幻獣を仲間にして、いざディルナドへと意気込んでいた彼らにとって、想定外の誤算だった。
「まさかディルナド行きの定期船が休航になっているなんて......」
レインはがっくりと肩を落とした。
「船が出せるようになるまで時間がかかりそうだな。なにか方法を考えなくては」
ラスウェルがそう言って考え始めると、レインが何か閃いたように指をパチンと鳴らした。
「そうだ、飛空艇があるじゃないか! ディルナド行きの船が出てるはずだ」
「ダメだ。そんな金がどこにある? ろくに準備もせずに国を出てきたんだ。懐が心許ない。任務であれば乗せてもらうことも可能だろうが、今の俺たちは国の命令で動いているわけじゃないからな」
ラスウェルはすでに飛空艇での移動も案として考えていたかのように、そう言って即座に首を振った。
「やっぱりダメか。うーん、だったらどうすれば......」
「お前さんたち、ディルナドに行きたいのか?」
とそこへ、三人の会話を遠くで聞いていた商人風の男が声をかけてきた。
「うん、私たちディルナドに行かなきゃいけないの! でも、船が動かないんだって」
フィーナは必死にそう訴えかけた。
「俺たちはこれからディルナドに商売に行くんだ。定期船ほど立派な船じゃないが、船賃さえ出してくれれば乗せてくぜ」
「本当か!?」
まさに捨てる神あれば拾う神あり。レインはそう切り出してくれたその男に握手でもしようかと身を乗り出すと、
「ただし条件があってな。コロボス島に数日寄らなきゃならない」
そう冷静に言った。
「コロボス島? あの島になんの用事が」
コロボス島はディルナド大陸とは逆方向。それに、ラスウェルが思い返す限り、商売ができるような大きな都市やバザーもなかったはずだった。
「危険な海域を避けて、コロボス島を経由するルートを使うのさ。ついでにあの島に届ける荷物もあるんだ。お得意様がいてね。どうする? 大回りにはなるが、定期船を待ってるよりは早いぜ」
商人風の男はそう言って三人の顔を見回した。三人とも悩んでいると、一番に口火を切ったのはやはりレインだった。
「よし、行こう。その船に乗せてくれ」
「早く次のクリスタルに向かわなきゃね!」
「......他に方法もない、か。仕方あるまい」
フィーナもラスウェルも、賛成の意を示した。
「決まりだな!」
レインはそう言って二人と顔を見合わせ、商人風の男のあとに続いた。フィーナも良かった良かったと嬉しそうについていった。ラスウェルはというと、賛成はしたものの、やはり何かが引っかかっていた。
「しかし、コロボス島は廃れた島のはずだ。商人がお得意様と呼ぶような金払いのいい人間がまだいるのか?」
疑問は残ってはいるものの、ここでじっとしていても始まらない。ともかく今は船に乗るしかなかった。ラスウェルもレイン達のあとを追って船着場へと向かった。