ダイヤモンドダスト
新たな力、幻獣ゴーレムを仲間に加えることに成功したレインとラスウェルはフィーナの待つグランポートへと戻った。フィーナもすっかり元気になっており、いよいよディルナド行きの船を探そうかというところで、彼女からもう一体の幻獣についての可能性を聞かされた。こちらもランゼルト遺跡に向かう道中のことなのだが、あまり確信が持てなかったのでその時には話さなかったらしい。フロストドラゴンを倒した後、もう一つ、大きな力を感じており、モンスターのものとは違う、不思議な感覚だったようだ。その話を聞いたレインとラスウェルは恐らく幻獣だろうと判断。そこで三人は、戦力は多い方が良いということで意見が一致し、再びランゼルト雪山へと足を運んだ。
「感じる......。とても、強い力」
フィーナはそう言って目の前の洞窟を見た。
「地元の人たちは、幻獣シヴァがいるって言ってるみたいだ」
「お前にしては、珍しく情報を持っているな?」
ラスウェルはこの雪山に幻獣がいるとは聞いたことがなく半信半疑だった。なのに座学嫌いのレインが詳しいことを知っているとは少し意外だった。
「だって、シヴァはセイレーンみたいにセクシーなお姉さまで! 普段はツンケンしてるけど、一度気に入った相手にはデレデレになるらしいぞ!」
レインは力強くそう言うとニヤニヤとたるんだ表情になった。
「セクシー......? デレデレ......?」
「フィーナ、ともかくお前の感じた力は本物だ。幻獣という強大な存在がいる」
ラスウェルはレインの変な知識をフィーナに与えたくはなかった。
「そう! 幻獣シヴァを仲間にして、旅の楽しみを......」
「『戦力を』増やすんだ。わかったか、フィーナ?」
しつこいレインを遮りながら、語気を強めてラスウェルはフィーナにそう言った。
「う、うん。その幻獣っていうものに仲間になってもらうのね」
「そういうことだ! さあ行こう!」
レインの張り切りようを見たフィーナは、きっとすごい力を持ってるに違いない、そう思い期待を膨らませながら洞窟の中へと入って行った。
「ねえ、セクシーってどういうこと?」
フィーナは、レインがあれだけやる気になっていた原因を知りたかった。
「それはだな! 胸がぼーんと大きく! 腰はしなやかに丸く!」
「レインは、その『セクシーな美女』が好きなの?」
「もちろん大好きだ! いや、嫌いな男がこの世にいるだろうか!」
レインはつばを飛ばしながらフィーナに力説した。
「......やめろ、世界中の男をお前と一緒にするな」
ラスウェルはそう言うとげんなりした。
「ねえ、ラスウェルは『セクシーな美女』に興味がないの?」
「そもそも、シヴァは幻獣だ。貴重な戦力としてなら興味がある」
ラスウェルはフィーナの質問にそう答えながら剣を振るう。
「とか言ってるけど、こいつも内心は俺と同じでさ......」
「だから、一緒にするな!」
ラスウェルはレインへの怒りをぶつけるようにモンスターを次々と倒していく。レインはこりゃ楽ちんとばかりにフィーナと一緒に後をついていった。そして、ついに最奥部、シヴァの石像のある場所へとたどり着いた。これまでの幻獣と同じく、レイン達の力に反応するように四方の球が輝き出すと石像も同時に輝き出し、幻獣シヴァが姿を現した。
「傲慢な人間どもめ......。この大地を、わらわの領域と知って踏み込んだか!!」
「もちろん、あんたのその美貌......じゃなくて、力を見込んで、誘いに来たんだ。ここに独りでいるより、俺たちと来ないか? きっと楽しいぞ」
レインは前に出てそう言うと、手を差し出した。
「おい、幻獣を相手にナンパしてどうする」
ラスウェルはそう言ってレインをたしなめようとしたが、
「ええい、去れ! さもなくばそのよく滑る口、永遠に凍てつかせてくれよう!」
時すでに遅し。案の定シヴァの怒りを買ってしまった。
「うーん、いい......。伝説通り、一筋縄じゃいかないお姉さまだ」
レインはそう言ってうんうんと何かに納得していた。
「悠長にしてる場合か! 来るぞ!!」
氷の女王とも称されるこの幻獣の冷気は凄まじかった。それでもこのランゼルトでのモンスターとの戦いの経験を活かし、対抗していくレイン達。最後のダイヤモンドダストもどうにか凌ぎ切り、打ち倒すことができた。
「くっ、我が氷に打ち勝つとは。だが、わらわは誇り高き幻獣! 人間の命令は受けぬ!」
シヴァはそう言ってあくまでレイン達を拒否しようとした。その時、フィーナが二人をかき分けて前に出て、手を合わせながら言った。
「お願い、力を貸して。絶対に、大事にするから」
「......むっ。そこまで言うなら......」
シヴァはフィーナをちらちらと見ながら、しおらし気にそう言った。
「あれ? 何か、フィーナには優しくないか?」
レインはそう言ってラスウェルと顔を見合わせた。
「あのね、シヴァさん。戦いが終わったら、ちゃんと帰してあげるから......ねっ」
「そ、そのように純粋な瞳で見るでない! ......よ、よかろう! わらわの力、そなたに授けようぞ、娘」
「わあ! ありがとう!」
フィーナがそう言って喜ぶと、シヴァもなんだか嬉しそうに再び石像へと姿を戻すと、その力がフィーナの元へと宿った。
「よくやった、フィーナ。シヴァは女性に弱かったのか」
ラスウェルはこういうこともあるものか、と腕組みをしながらうんうんとうなった。
「何かこう......、空振りをした感が......」
レインはそう言ってガクッと肩を落とした。
「まあまあ、力を貸してくれるんだから、よかったじゃない!」
フィーナは笑顔でそう言った。
「ああ、礼を言う。フィーナがいなければ、シヴァを仲間にはできなかった」
「ふふ、どういたしまして!」
ラスウェルに褒められたフィーナは後ろ手にやり、さらに笑顔を見せた。レインだけはまだ納得がいかない様子で、ぶつぶつと何か独り言をぼやいていた。