クリスタルの影響


 飛空艇を破壊されたレイン達は、一刻も早く土の神殿で起きたことを報告するため、徒歩でラティウスの森を経由して、グランシェルト城へと向かおうとしていた。


「レイン......大丈夫か?」


 いつもの元気がないレインに声をかけるラスウェル。


「このラティウスの森を抜けて、ひとまずはミトラの町を目指そう」


 レインは力なく、うつむいたままそう言った。


「その前に1つ、お前に話しておくことがある。俺たちが手にしたビジョンの力についてだ。クリスタルに封じ込められた、人々の記憶や想い......。それがビジョンだ」


 ラスウェルは淡々とビジョンについて話し始めた。


「過去や異界の英雄たちのビジョンを喚び出すことを『召喚』と呼ぶ。......言葉で説明するよりも、試してみたほうが早いな。さぁ、召喚してみるんだ」


 レインに託されたクリスタルから戦士が現れる。


「無事に召喚できたようだな。心強い味方になるはずだ」


 ラスウェルはほっとしたようにそう言った。


「召喚......。こんな力があるなんて」


 レインは今まで見たことのない、召喚の力に驚きと共に興奮を覚えた。


「だが、召喚しただけでは意味がない」


 ラスウェルはそう言って、自分達の装備同様に、ビジョンの戦士達も武器や防具、魔法の装備ができることを説明した。


「これで英雄たちのビジョンが、俺たちに力を貸してくれるはずだ。せっかく手に入れたビジョンの力だ。有効に活用しなくてはな」

「ラスウェル、よくこんな方法を知ってたな」


 不思議そうなレインの顔を見て、ラスウェルはふっと笑みをこぼした。


「以前、お前の父親......レーゲンさんに教えてもらったのだ」

「あの男が? どういうことだ?」


 ラスウェルのその言葉を聞いたレインの表情は険しくなった。


「自分の父親をあの男なんて言うべきではない」


 ラスウェルはたしなめるようにそう返した。


「それにレーゲンさんは立派なグランシェルトの騎士ではないか」

「立派......ねぇ」


 レインは無機質にそう吐き捨てた。


「正直、教わった時は意味がよくわからなかったのだが......。俺たちがビジョンを手に入れることをレーゲンさんは予見していたのかもな」


 ラスウェルがそう言うと、レインは今一つ納得のいかない表情をした。


「どうしてあいつがビジョンのことを......」


 深く考え込もうとしたレインだったが、ぶるぶるっと頭を振ると、


「まあ、今はそれを考えても仕方ないか。とにかくミトラの町へと急ごう」


 と言って、ラスウェルと共に先を急ぐことにした。


「ここにもモンスターがいるのか。面倒だな」


 ラティウスの森に入るなり、襲いかかるモンスター達。


「気をつけろ、ラスウェル。こいつら凶暴化しているぞ」


 そう言って剣を抜くレイン。


「もしやクリスタルが破壊された影響か?」

「ああ。恐らくな」


 二人は、召喚されたビジョンの戦士の力も使いつつ、モンスターを次々と撃破していった。


「ミトラの町はまだか?」

「恐らく半分くらいは進んだところじゃないか」


 森に入ってまだ少ししか来ていなかったのだが、レインを励ますようにラスウェルはそう答えた。


「まだ半分か。少し疲れてきたな。この戦闘が終わったら、ラスウェル、おんぶしてくれ」

「断る」


 冗談交じりに甘えてくるレインに対して、辛辣にそう即答するラスウェル。レインは半分本気でそう言ったようだったが、諦めてモンスターを倒すことに専念することにした。


「くそっ! どれだけモンスターがいるんだ!?」

「レイン、しっかりしろ! ここで俺たちがやられたら、死んだ兵士たちに合わせる顔がないぞ!」

「ああ。わかってる。俺たちはあいつらの分まで戦い抜かないとな」


 レインはラスウェルの言葉を聞いて、自分達の留守中に飛空艇を死守しようとして死んでいった部下の兵士達のことを思い出した。剣の柄を強く握りしめると、目の前のモンスター達を一撃のもとに倒しながら進んでいった。


「そろそろビジョンの力にも慣れてきたようだな」


 泉のほとりまで来ると、モンスターの襲撃がおさまり、安心したようにラスウェルが言った。


「ずいぶん詳しいようだが、これもあいつから教えてもらったのか?」

「ああ、そうだ。レーゲンさんから教わった」


 そう言って答えたラスウェルの視線から逃げるように背を向けたレインは、


「......ちっ。あいつ、どうしてラスウェルだけに」


 と吐き捨てるように言った。


「お前は素直に教えを受けないと思ったのだろう」


 自分だけが聞かされていた、ビジョンの力のこと。ラスウェルは今のレインの気持ちを考えると、そう答えるしかなかった。


「......確かに。言われてみればそうだ」


 レインは、自分に言い聞かせるようにそう言うと、そのことをその場に置いて行くかのように歩き始めた。そして、もう少しで森を抜ける、というところで、巨大な植物系のモンスターが立ちふさがった。土の神殿同様、いるはずのないモンスターに一瞬戸惑ったレイン達だったが、今の彼らの敵ではなかった。


「ふう。驚いたな。この森にオチューがいるなんて」


 そう言って剣をおさめるレイン。


「クリスタルが壊された影響だとすると、こいつは面倒なことになりそうだ」

「急ごう。ミトラの町はもうすぐだ」


 二人は嫌な予感を感じつつも、ミトラの町へと急いだ。



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