アースウォール
ディルナド大陸へ渡るため、大港グランポートへと戻ってきたレイン達。だが、常闇のヴェリアスとの圧倒的な力の差を見せつけられたラスウェルは船に乗る前に、戦力強化のためにとある場所へ赴く提案をした。ランゼルト遺跡から戻る際、傷ついたレインとラスウェルの回復をしながら歩いていたフィーナ。元気な自分が頑張らなければとはりきり過ぎたせいか、相当に疲れてしまっていた。そのため、彼女にはグランポートで休んでもらい、代わりにすっかり元気になった二人だけでその場所へと向かった。
「ここにはゴーレムという幻獣が封じられている」
そこはザデール砂漠の最南端、古びた遺跡が静かに建つ場所だった。
「へえ、誰に聞いたんだ?」
「王都から遠いとはいえ、ここもグランシェルト領だぞ? 王国騎士なら、常識だろう」
「......そうだっけ。実戦のこと以外はどうも頭に入らないんだよな」
レインは頭をかきながらそう言った。
「......仕方のないやつだな。封印の伝説があるのはこっちの方向だ」
ラスウェルはそう言ってうんざりした仕草をして見せた。が、かくいう彼も砂漠横断中に出会った、行き倒れになりかけていた男性の言葉を聞くまで忘れていた。その時のラスウェルは脱水症状が激しく先を急いでいたこともあり、レインもすっかり聞き流していたようだ。今にして思えば、あの時無理をしてでもゴーレムの力を手に入れることができていたら、ヴェリアスとももう少しまともにやり合えたかもしれない。ラスウェルはそんなことを考えながら砂漠の砂を踏みしめていた。
「ラスウェルって昔から真面目だよな」
「お前が不真面目すぎるんだ。まあ......何者にも縛られない、自由なレーゲンさんの性格を受け継いだのかもしれんが」
ラスウェルはそう答えると、横目でレインの顔を見ながらうっすら笑みを浮かべた。
「誰があんなヤツに! よし、決めた、俺はこれからあいつなんかより真面目になる!」
レインはそう言いながら大剣を構えると、いつもより基本に忠実な剣さばきでモンスターを倒していった。
「えーと、ゴーレムってのは、古代の誰かが生み出した人工の幻獣だったよな?」
「そうだ、やれば思い出せるじゃないか」
ラスウェルは少しだけ、驚いた表情をして見せた。
「ふふん、バカにするなよ。そして、ゴーレムは何かを護るためここにいる」
「正解だ。もっとも、何を護っているか明らかにはなってないがな」
「護るっていうと......やっぱり財宝とかかな」
レインはそう言うと、きらりと目を輝かせた。なんだかんだ言って、やっぱりこいつは父親譲りの好奇心を持っているんだなとラスウェルは思ったが、口には出さなかった。遺跡はさほど大きくなく、中央の祭壇部へとすぐにたどり着いた。そこには、今までの幻獣達と同じように、石像のようになっているゴーレムの姿が見えた。レイン達が近づくと、四方の玉が輝き出し、封印が解かれるようにゴーレムに命の火が灯った。
「【生命反応ヲ感知】......【侵入者ト認定】......」
「石像が動き出した!」
「【魔導ロック解除】【戦闘プログラム・起動完了】【侵入者ヲ排除】」
ゴーレムの体内から声とも機械音ともとれない音声がそう聞こえてくると、ゆっくりとレイン達に向かってくる。
「どうやら、話をして通じる相手ではないな」
「ああ、倒して黙らせるぞ!」
レインもラスウェルも剣を抜き、ゴーレムに向かっていった。その身体はほとんど石のようで、剣での攻撃ではなかなかダメージを与えることができなかった。魔法も駆使してようやく打ち倒すことができると、
「【戦闘プログラム......停止】」
と聞こえ、ゴーレムは動きを止めた。さらに、奇妙な機械音とともに、
「【データ更新......】【侵入者ヲ新タナ管理者ト認定】」
とそう言ったかと思うと、ゴーレムは再び石像のようになり、その力がレイン達に宿った。
「ゴーレムは仲間になったみたいだけど......。財宝は見当たらないな」
レインがそう言って肩を落とすと、
「待て、ここに石碑がある」
と、ラスウェルはゴーレムの乗っていた台座に埋め込まれた石碑の砂埃を払いのけ、そこに刻まれた文字を読み始めた。
『遠い未来、これを読む勇気ある者へ......』『私はゴーレムの開発者である。この幻獣は強大であるがゆえに所有権を巡って争いとなった』『私は争いを収めるべく、ゴーレムに【自分自身を護る】命令をし、封印した......』『ゆえに、未来の者よ。ゴーレムを倒した暁には、その力を正しく使ってほしい』
全文を読み終えると、納得ができたように石像となったゴーレムを見上げ、
「ゴーレムが護っていたのは、自分自身......か」
とつぶやき、レインの方を向いた。
「財宝じゃなくて残念だったな」
「ああ、でも頼りになる仲間だ!」
そう言ったレインの瞳は、財宝があると思っていた時よりもキラキラと輝いていた。