アンデッドの住処
そびえ立つ山々の間、ゴーザス峡谷へと足を踏み入れたレイン達。日の当たる山道とは違い、薄暗く草木にも活力が感じられなかった。
「なんか気味の悪いところだね。オバケとか出てきそう......」
エマがぽつりとそう言うと、全員がびくっとしたように彼女を見た。
「......私、なんか......。オバケって苦手みたい」
フィーナはそう言うと引きつった笑顔を見せた。
「オバケならこの先も出るぞ。ゾンビだがな」
「ええっ!? レイン、ゾンビってオバケなの?」
ラスウェルの言葉に驚いたフィーナは、助けを求めるようにそうレインに言った。
「まあ、オバケとも言えるかもな。死んだ人間が起き上がった魔物をゾンビっていうんだ」
「そ、そんな......」
フィーナはショックを受けたように後ずさると、しばらく放心状態になり、はっと我を取り戻すように頭をぶるぶると横に振ると、
「ううん、違う! ゾンビはゾンビだよ! 元は人間だったんでしょ! オバケじゃない! そういうことにしておけば大丈夫!」
と大きな声で言ったかと思うと、ぶつぶつとオバケじゃないオバケじゃないと念仏のように唱え始めた。
「まあ、フィーナがそれでいいなら問題ないさ。さあ、先に進もう」
レインがそう言って歩き始めると、フィーナは引きつった笑顔でまだぶつぶつと何か言いながらついて行った。
「うう。いるいる。たくさんオバケみたいなのが。ううん! 違う違う! これはオバケじゃない! オバケじゃないったらオバケじゃない!」
「懸命に自分に言い聞かせてるな」
行く手を阻むように現れるゾンビの群れに対し、やっぱり念仏のように繰り返しながらぶつぶつ唱えているフィーナを横目で見ながら、ラスウェルはそう言って剣を構えた。
「フィーナもまだまだ子供だな。オバケが怖いなんて」
レインがふふんと鼻で笑いながらそう言うと、
「レインも夜は幽霊が怖くてトイレに行けないじゃないか」
ラスウェルはそう言ってふっと笑った。
「ええっ!? ホントに!?」
「ラスウェル! それは小っちゃな子供の頃の話だろ!」
驚くフィーナの声をさえぎるようにレインは大声で反論した。それを見たラスウェルは何も答えず、またふっと笑った。
「いやな予感がするな」
「レイン、お前もか」
「ああ。どこかにこいつらの親玉がいそうな雰囲気だ」
レインとラスウェルは、次々に現れるゾンビの群れに妙な統率性があるのを感じとっていた。
「ちょ、ちょっとやめて! オバケの親玉なんて考えたくもないよ!」
フィーナは大声そう言うと後ろにぴったりついてくるエマの手をぎゅっと握った。日も暮れ始め、あたりもさらに薄暗くなってきた峡谷の闇の奥で、ぼんやりと光る薄緑色の球が見えた。
「いやあ! 出た!」
フィーナが叫び、指差した先には巨大な骨のモンスター、マーハディーバが薄緑色の目を輝かせながら立ちふさがっていた。
「でかいぞ!」
「オバケの親玉の登場ってわけだ」
レインとラスウェルはそう言って剣を構え、斬り込んでいった。
「だからオバケって言わないで!」
フィーナもそう言いながら、エマをかばうように後方から支援した。ただでさえ辺りは暗くなってきているのに、マーハディーバの放つ真っ黒なガスでさらに視界が悪くなった。怖い怖いと言いながらもフィーナの適切な支援で、無事倒すことができた。それからしばらく歩くと、ようやく峡谷を抜けることができ、一向はようやく西日を拝むことができた。
「やれやれ。ヒドい場所だったな」
レインがそう言って大きく深呼吸すると、
「ホント! もうこんな場所、二度と来たくない!」
フィーナがぶるぶると頭を振りながら大声で言った。
「ご、ごめんなさい。私のせいで......」
エマはフィーナに向かって申し訳なさそうに小さな声でそう言った。それを聞いたフィーナはさらにぶるぶると大きく頭を横に振った。
「ううん! 違う違う! そういう意味じゃないから! 戦ってみたら、怖くなかったっていうか......。むしろ、人間っぽくてかわいいかも?」
「フィーナ......。無理をしなくてもいいんだぜ」
あたふたしながらエマに弁明するフィーナを見てレインがそう言うと、
「む、む、無理なんかしてないもん! 私、ゾンビは平気だもん!」
フィーナは顔を真っ赤にしながらそう言ってレインに向かっていった。
「......ありがとう、フィーナ」
エマはそう言うとうっすらと涙を浮かべながら、にこっと笑った。