はがゆいラスウェル
エマの案内でコロボス湿地へと入ったレイン達。しとしとと降り続く雨のせいか、あちこちに大きな水たまりができていた。そもそも島全体に活気がなかったのだが、この湿地帯では交易も難しいだろうということがうかがい知れた。遺跡へと進む道はというと、かろうじて獣道のような道と朽ちかけた桟橋がある程度だったのだが、それを頼りにするしかなさそうだった。
「で、その遺跡ってのはこっちの方角でいいのかい?」
レインがエマにそう訊ねると、彼女は小さくうなづく。
「あっ、でも、遺跡に行く前にナシャトの町によりたいな。お母さん、ナシャトの町の風景が大好きって言ってたの。寄り道になっちゃうけど、お母さんはそっちにいるかもしれないから」
「わかった。まずはナシャトの町だな」
エマが申し訳なさそうにうつむきながらそう言うと、ラスウェルはそう即答した。
「ラスウェル、どうしたの? いつもなら寄り道すると怒るのに」
「そうだそうだ、エマちゃんをひいきしてないか? そんな風に女の子に甘いようじゃ、俺のことをとやかく言えないぞ」
フィーナもレインも、彼らしくない対応に驚いていた。いつもなら、レインが真っ先にエマの意見に賛同し、それに対してラスウェルがそんな暇はない、目的地に行くべきだと反論するのがお決まりだったからだ。
「俺とお前を一緒にするな。困っている者を助けるのはグランシェルトの騎士の義務だ」
ラスウェルはむすっとした表情でそう言うと、レインをかき分けるようにして歩き出した。そのまま、皆の方を振り向かず立ち止まると、
「......それに。母親を探しているのなら、なおさら力になってやらないと」
そう小さな声でぼそっとつぶやいた。
「俺は寄り道、大好きだぜ」
「私も寄り道、大好き!」
ラスウェルの後ろでレインとフィーナがそう言いながら追いついてくる。
「言っておくが、お前たちの寄り道は却下だ」
ラスウェルはそう言いながら、湿地から襲ってくるモンスターを淡々と倒して進んでいった。
「レインとラスウェルって、本当に強いんだね!」
エマがフィーナの後ろから時々顔をのぞかせると、目を輝かせながらそう言った。
「へへ、まあな!」
「レイン、調子に乗るな。『騎士は自惚れるべからず』騎士の心得、その15を忘れるな」
ラスウェルはレインにそう言うと、フィーナはそれを聞いて、
「騎士の心得......。そんなのがあるんだ」
と言ってエマと顔を合わせた。そしてそのまま、
「エマちゃんはどうしてお母さんに会いたいの?」
と聞いてみた。エマは少し困ったような表情を見せると、
「どうしてって......。お母さんに会いたいのは普通でしょ? フィーナはお母さんに会いたくないの?」
と、逆に質問で返した。
「私にお母さんっているのかな? よくわからないの」
フィーナは少し考えた後そう答えると、エマはしまったという表情であたふたとし始めた。
「......あ、えっと......。......ごめんなさい......」
モンスターを倒しながら二人のやり取りを聞いていたレインとラスウェル。どう説明したものかとフォローに入れずにいたのだが、フィーナは笑顔でエマと手を繋いでいたので、とりあえずは大丈夫だろうとそのまま先へと進んだ。