パラデイアの六盟傑
破壊され、火の手に包まれるグランシェルト城。その国主を担ぎながらゆっくりと歩くレインとラスウェルは振り返り、改めて現実を直視した。
「......城が燃えている」
自分達が守るべきはずだった城を見つめながらボソッとつぶやくレイン。
「くそ......。なんてことだ」
ラスウェルもこぶしを握り締めながらそうつぶやいたその瞬間、レインの目に見覚えのある姿が飛び込んできた。
「あいつは!?」
「いや...奴だけじゃない。な、中に、もっと隠れているぞ! 1人でも恐るべき強さだったのに......。それが6人もいるなんて......」
ラスウェルがそう言うと、二人は同時に剣を抜いた。目の前に現れたのは忘れもしない、全身黒い鎧を纏った男。その後ろにはさらに、黒いローブを頭から羽織った五つの人影が見えた。
「構えろ、ラスウェル」
レインがそう言って剣を構えた瞬間、地面がひび割れ大きな穴が開いた。その中から、またしてもクリスタルの少女が現れた。
「あの子は!?」
「飛空艇で見た幻の女とよく似ている。これはどういうことだ」
ラスウェルは、このタイミングで現れた少女の姿を見て、驚きを隠せなかった。
「おお......。土のクリスタルに封印されしものとは、この少女のことだったのか?」
グランシェルト王も少女の姿を見つめると、そうつぶやいた。
「あの2人......。なるほど。ビジョンの力を身に付けたのか」
黒い鎧を纏った男がそう言うと、
「ああ。今度は簡単にやられないぜ」
レインはその男に剣を構え直した。
「言ったはずだ。無知は罪だと」
「またそれか。なんかムカつくんだよ、お前は」
「放っておけば脅威となるかもしれんな。ならば......」
そう言って右腕を高々と挙げる黒衣の男。
「我はパラデイアの六盟傑が一人! 常闇のヴェリアス! 汚れた力を使う者に死を!」
声を張り上げ、そう言ったかと思うと黒き力をレイン達めがけて放ってきた。それとほぼ同時に少女を包んでいたクリスタルが砕け散り、目もくらむような眩い光によって黒き力がかき消された。気付くと、まるでかばうように謎の少女がレイン達の前に立っていた。
「この人は私たちの最後の希望......。手出しはさせない!」
「なんという力だ......」
ラスウェルは、自分達が手も足も出なかった攻撃を打ち消した力にあ然とした。
「この子は一体......」
レインもそう言って、少女の後ろ姿を見つめた。
「まあ、いい。ここでの目的は達した。次のクリスタルへ向かうとしよう」
常闇のヴェリアスはそう言うと、後ろに控えていた者達と共に姿を消した。少女はそれを見て安心したのか、魔法障壁を解除すると地面に座り込んだ。
「君は俺たちを助けてくれたんだな。......ありがとう」
レインは、何も身に付けていない少女に自分の上着を着せながらそう言った。
「私はフィーナ......」
「フィーナ。それが君の名前か」
「何も......思い出せない......。名前の他には何も......」
「まさか......。今の力のせいで記憶が?」
レインは自らの身を削ってでも自分達を守ってくれたこの少女に、それ以上かける言葉が見つからなかった。
「陛下とその子を救護兵のもとに連れて行かねば」
ラスウェルは目のやり場に困りながら、レインにそう言った。
「......ああ。そうしよう」
二人はグランシェルト王とフィーナを王都まで無事送り届けると、現状の把握と今後のことについて忙しくあちこち走り回っていた。
「では、陛下と少女のことは任せたぞ」
「はっ! お任せください!」
王都守備隊長にそう言って念を押すラスウェル。
「ところで、レインはどうした? 姿が見えないようだが......」
いつの間にかいなくなっていたレインに気付いたラスウェルはそう言ってあたりを見回した。
「レイン隊長なら先程、西門の方へ向かわれましたが」
「レインのやつ、こんな大事な時に一人でどこへ......」
この非常時にもまたさぼりグセが出たのでは、と少しだけ不安になるラスウェル。さすがにそれはないと信じながら、西門へと向かった。